Re:port 0/ミキの世界
気付けば私は、ひたすら白いだけの世界に存在していた。
それは、奇妙と言う他無い状態だった。感覚は有るのに体が透けていて、足場が存在しないのに立っていられてる。
そんな、何とも不自然、不可思議な空間に、私は居た。
「私は……。
……誰……?」
「あなたは、『ブレスト』よ」
誰も答えてくれないと疑わなかった質問に、誰かが答えてくれた。
この場に、私以外の誰かが?
「!?」
声の聴こえた方へ即座に振り返る。
そこには、私と違って実体を持っていた大人びた女性が、にこやかに立っていた。
その
「……ブレスト?」
「ええ。
人間の心の中、趣味で構成された世界、『
内側から、ある程度まで関心、思考に携わる、神秘の存在。
そしてブレストは、それぞれに異なる趣味を司っているの。
あなたは、彼自身に対する興味を担当する存在。謂わば理性、生命力、データ・バンクその物よ。
そして」
彼女は私の方へと伸ばした手を広げ、
すると、何も無かった
赤ん坊だ。産まれたての赤ん坊が、女性にそっくりな母親に抱き抱えられ、元気に産声を上げていた。
「あれが、あなたのご主人であり父。
あなたは、彼の内側に
「じゃあ、あなたは?」
「あなたと同じブレストよ。
あなたのご主人の、母に対する興味によって作られ、生きている者」
なるほど。そういう理屈か。確かに、それなら納得だ。
「じゃあ、どうして私には実体が無いの?」
「産まれて間も無い彼の想像力が、まだ不安定だからよ。
私の場合は、彼の母に寄せてイメージすれば済む話だもの。でも、あなたはそうは行かない。
あなたはこれから、外見に髪、声に性格、所作の一つ一つでさえ、彼の理想とする女性の姿となるの。
丁度、共に支え合い、時に間違いに気付かせてくれる、最愛の人の
まだ少し年月がかかるけれど」
「ふーん」
なーんか変な感じ。
こうして間接的に遠くから見てるだけで、実際に会った
名前……名前かぁ。
「ねぇ。
彼、
「まだ決まってないわ。
ただ、名字は分かってるわよ。『
「
いつか私を、君の理想通りのヒロインにしてくれるマスター。
「ねぇ。
私に、名前を付けてくれない?」
「私が?
「うん。だって私、まだあなた以外に友達が
でも、自分で付けるのは少し恥ずかしいし
お願い」
「うーん……そうねぇ」
女性は少し悩んだ
「『ミキ』。『ミキ』は、どうかしら?
『
いつかあなたが彼のアクセル、ブレーキとなり、彼が困ってる時は励まし、彼が間違っている時は止められる、そんな彼とは対象的な支えになれる
それと、
「ミキ……」
その名前は、ストンと胸の中に綺麗に収まった。まるで、名前自体が足りないピースとなり、穴を埋めてくれた
「ミキ、ミキ……。
……うん。気に入った。ありがとう」
「どういたしまして。
これから宜しくね? ミキ。
どうかあの子を、正しく優しく、明るく導いてね」
「うん。こちらこそ、宜しく」
私達は互いの健闘を祈り、固く握手を交わした。
「あら?」
「うん?」
何かを感知したのか、映像をスクロールさせ、彼女が表情を綻ばせた。
「彼の名前、決まったみたい。
『
「
それは、
その名前を呼ぶだけで、体の内側から、ポカポカとした何かがジュワ~ッと広がり、幸福感と愛情と期待で満たしてくれる
あ。でも、私は彼の理想のヒロイン像になるんだし、あだ名で呼んだ方が
うーん……じゃーあー……。
「ナオくん。これから、宜しくね」
映像越しに、私は彼に挨拶し、
これが私……
そして、私の父であり主人であり最愛の人、ナオくんとの出会いの日だった。
※
本を読むのと書くのが好き。
オレンジ色が好き。
クラスの紹介文に『優しさ検定一級』って書かれたり、家に連絡したいのに電話が無くて困ってる人が
文化祭で『お年寄りに席を譲るで賞』を
時間が経つに連れてナオくんは、そんな男子に成長して行った。
合わせて私の見た目や服装も、彼の好きなタイプへと変化して行った。
って言っても、
ナオくんはお勉強や運動が得意ではないし、社交的でもないので友達は
どちらかと言うと控え目、ツッコミ役で、誰かとセットでいたりサポートに回る
ナオくんのそんな
ナオくんはイケメンでもないらしいので、男子にも女子にもウケがイマイチなのだ。
悪いのではなくイマイチというのが、また微妙な
親友や恋人などではなく、
そんな
「はぁ……」
最近貰った一人部屋で休んでいるナオくんの映像を見つつ、私は願う。
「私が
そしたら
頬杖をつきつつ零していると、不意に目眩がした。
あ、あれ……? おかしいな……。私は人間じゃなくてブレストで、別に産まれたてでもないから、睡眠は必要無い
などと怪しんでいる
※
「ミキ。起きて
「……ん……」
見晴らしの
「ん……。ん〜……」
目を閉じ体を伸ばしダランと戻した
思った通り、視線の先にはナオくんのお母さんを模した女性が立っていた。
私が産まれて初めて出会い、私に名前を付けてくれた、ナオくんのお母さんへの興味によって作られたブレストさんだ。
「久し振り〜。えと……」
言葉を発してから私は、自分がまだ彼女の名前を知らない
そういえば、あれからブレストが増えてからは、あんまり会ってなかったっけ。
何せ、赤ちゃんのナオくんが、果てしない好奇心と覚束ない想像力で、次から次へと落書き染みたブレストを作っては、飽きて忘れ去って次々に消して行ったから、人混みならぬブレスト混みに巻き込まれて逸れてしまったんだった。
「……ごめん。
名前、
「ユカリよ。
今は
言ってしまえば、絆の管理者ね。
「え、何それ
私から
「あなただって充分、
何たって、
「い、いやー……。あはは……」
照れ笑いしていると、それまで柔和だったユカリが、少し
「ところで、ミキ。突然だけれど、ちょっと付いて来てくれるかしら?
あなたに説明しなきゃいけない大事な
「え? ……うん」
神妙な雰囲気に押され、
※
いつだかナオくんが観てたSF映画。
そこには、未来にタイムスリップした少年の眼下に、田舎暮らしで見慣れた景色には似ても似つかない、高層ビルやドローンや立体映像やロボットで溢れた光景が広がっているシーンが有った。
それとは微妙に異なってるけれど。心境的には近いパノラマが今、私の視界と脳と心を根こそぎ奪って行った。
お世辞にも褒められなかったレベルから、都会的なレベルにまで進化した、活気に溢れた街並み。
見た事の無い、数え切れない、イマジネーションに溢れたオリジナルのブレスト
そして取り分け目立つ、街の中心に円状に広がった、一番でかくて派手で、何やら順位や名前、写真の描かれた、掲示板の
そんな、たった一日での変化とは
「何……これ……」
ひたすら戸惑うしか無い私の肩に、ユカリが後ろから穏やかに触れ、隣に並んだ。
「ミキ。落ち着いて、聞いて
「じゅう……さん……?」
言われてみれば、
っても、この衝撃的過ぎる展開のお
ていうか、え、待って。
いや、ま、あのままだとナオくんが悲惨な目に遭うのを見させられているのに助けに行けないもどかしさで、確実にどうにかなっていただろうから、万々歳だけど。
あーでも、体育祭や文化祭のシーンは観てみた……くもないな、うん。ナオくん、ハブられてるかもだし。
「ふーん。
「あなた……意外と落ち着いてるわね」
私の横で、ユカリが冷や汗を掻いていた。
いや、
落ち着いてて当然だよ。私は、落ち込んでても割と
これ
「まぁね。
ところで、あのでっかいボード、何?
「え、ええ。あれは」
少し戸惑いつつ解説してくれようとするユカリ。
彼女の姿が、忽然と私の前から消えた。
「え、え?」
ワープ? え、
「呼ばれたのよ」
「あの方、準レギュですものねぇ」
辺りを見回していると、今度は初めて聴く声が二つ、届いた。
目をやると、イメージ通りの女性が二人、目の前に立っていた。
「初めまして。リアよ。
ボスの、仕事への関心担当。
名前の由来は、キャリアとリアル。
お見知り置きを」
「ロマですわぁ。
ご主人様のラブコメ担当ですわぁ。
よろしくですわぁ、ミキさんぅ」
「う、うん……こちらこそ……」
内心、軽く引きながら私は社交辞令を返した。
「ところで、リア。『呼ばれた』って?」
私の横に座り、パソコンをカタカタと打ち始めたリアに、率直に質問する。
「読んで字の如しよ。
彼女は、授賞式に招待された。彼女、ホビッグだから」
「ホビッグ?」
「はいはーいぃ。私が説明しますわぁ」
聞いてもないのに、自分から割り込んで来るロマ。相変わらず、聴いてるだけで眠りそうな、甘々の声だ。
「私達ブレストは数年前から、日々の仕事っ
「『自分達の担当分野で、どれだけ主の心と脳内、延いては人生を幸せで満たし、癒やしたか』っていう貢献度でね」
「その通りですわぁ。
ライキングと名付けられたそのシステムにより、一度でもベスト10に選出された方を、ホビッグと呼ぶんですわぁ」
「ホビー分野でビッグになったから、ホビッグ。
で、そこに食い込めたら、本人の意志とか事情とかに関係無く、あそこのメイン・ステージで開かれた授賞式に強制的に呼ばれるって
若干ブラックね。よくもまぁ毎日毎日、飽きもせずにそんな催しを開き、あまつさえ
疲れないのかしら?」
「何その、底知れぬディ◯ニー感……」
モンスターズ・イ◯クとか、シュガ◯・ラッシュとか、インサイ◯・ヘッドとか、ああいう路線じゃん、それ……。
ブレストの時点で大概だったのに
……待って? 何か、知らない作品のデータが
どゆ
「そりゃそうでしょ。
あんたは、ボスのデータ・バンクも務めてるんだもの。あんたが眠ってる間も、ボスが味わった物の中で印象的だった記憶は、きちんと残ってるのよ。
ま、ボスが完全に忘れたら
「ふーん。フィリッ◯くんみたいな物かー。なるほどー。
……ってぇ! フィ◯ップ、誰ぇ!?」
「それこそ、検索しなさいよ。
「う〜……。分かった〜……」
うーん……
あーでも、ナオくんが綺麗に成長したって証だし、新しい歴史も趣味も、ナオくんらしくはあるな。
うん。深く考えるのは、後にしよう。
そう
「話は分かった。
って
少し考え至った結論に、私は
だって、そうでしょ!? ユカリは、ナオくんの絆担当!
そのユカリがライキングってのに選ばれたって
私の発言が意外だったのか、それまでパソコンしか見ていなかったリアが、やっと私の方を見た。
「あんた、意外と頭が回るのね」
「当然! ナオくんのブレイン担当だもの!」
えっへんと胸を張ると、リアは
いや、リアル会話にまで既読スルーの悪習、導入すんなし。
「ご
食事は
「きゃー♪ ほらね、ほらね!
私の思った通り!
だって、あんなに優しいナオくんが親しまれない、溶け込めないなんて、嘘だもん!」
「肩を叩くな。肩凝りなんてしてないわよ」
あ、やっと
何さ。つれないなー。この子、あんま好きくなーい。
「喜んでばかりもいられませんことよぉ。
まだ働き始めたばかりで、完全に心を開けてはいませんので、レギュラーではありませんわぁ。
常連というだけで、滑り込みセーフは
「あと、今までは散々、コミュニケーションを
「何でもいいよぉ!! ビバ、ナオくん!!」
「
よくもまぁ、そんな至上主義でボスの理性、生命力なんて務められてるわね」
「ね、ね!? ホビッグって、どんなブレストが
もしかして、二人も!?」
「……あんた
あんただって、ニュアンスは異なれど同類じゃない」
「なーんだ♪ ちゃんとツッコミ
よく
「だから、気安く触るな。話も逸らすな」
どうやら誤解だったらしく、何だかんだで関わって行けそうで安心した。
「フー」
「ん?」
リア(の反応)で遊んでいると不意に、ちょっと眠たそうな、女の子の声が聴こえた。
見ると、兎をモチーフにしたパジャマを纏う小さな女の子が、同じく兎のぬいぐるみを抱え、瞼を擦りながら現れた。
「フーたぁん。
もう授賞式は終わったんですのぉ?」
「フー……。パパマスター、おきたか
ちょっと、おきゅうけぇ……。」
「そうね。
時間帯的に、今のボスは少しスマホ
「それに加えてご
起き抜けにお風呂に入れば、フーたんはまた呼ばれますわぁ。
フーたんの担当は、お風呂とお
「フー……。がんば
「……」
……何? この子。
「何この子、何この子、何この子ぉぉぉぉぉ!?」
「フー……?」
堪え切れず、私は無我夢中で、目の前にいるフーたんとやらを抱き締めた。
いや、もう、マジ天使なんですけど!? サイカワなんですけど!?
服装とかぬいぐるみとか性格とか名前とか常に眠そうな所とか、『ら行』が上手く発音できない所とか、『フー』っていう口癖とか、
そりゃライキングにも入れるよ!
「いや……それは彼女の日々の、弛まぬ仕事っ
「細かい
ねぇ、フーたん! 私のビタミンになってぇぇぇぇぇ!!」
「ふ、フー……? フー……」
どうやら了承してくれたらしく、フーたんは少し反応に困りながらも
こうして私の、
ライキングかぁ。始まった経緯は知らないけど、そんなシステムが生まれた以上、
ま、簡単でしょ! だって今のナオくんには、ナオくんの良さを正しく理解してくれる人が沢山(かどうかは知らないけど)
きっと、
※
「と思ってたのにさぁぁぁぁぁぁ!!
どぉぉぉぉぉしてなのぉぉぉぉぉ!!」
「……今日も今日とて
あれから
「そりゃそうでしょ。
ボスが同僚に好かれてるのは、働き
「『天然ボケさ』って何さ!?」
「事実よ。
おまけに、そういう
これじゃあ、自分を好きになれだなんて夢のまた夢、土台、無理な話ね。
だって、『自分が周囲に
「ナオくんの鈍ちん、善人、博愛主義者!!
無限愛してるぅぅぅぅぅ!!」
「
「まぁまぁ、ミキさん、落ち着いてくださいぃ。
きっと、
「いつ!?
私が何回、泣くか叫んだ時!?」
「フー。
ミキー。泣かないでー」
「フーたぁぁぁぁぁん、愛してるぅぅぅぅぅっ!!
ナオくんの次にぃぃぃぃぃ!!」
膝の上に座るフーたんをハグしようとしたら、両手が
「おぉっとぉ、ここでまたしても参戦者だぁ!
我らが共有ブレスト財産、可愛さと愛しさの権化、名実共に正真正銘、永遠、天下無敵のオアシス・ガール!!
ここからは、私のターンだ! そう! フーターンだ!!
ご唱和ください、彼女の名を!!
ふぅぅぅぅぅうぅぅぅぅぅ、たぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁんぅぅぅぅぅっ!!
見事Uターンし、第一位に返り咲いたぁぁぁぁぁ!!」
「……あそこにも、
「フーたぁぁぁぁぁんっ!!
カームバァァァァァックゥ!!」
「……どうせ、あと五分もすれば戻って来るわ。
出勤前に仮眠取ってるだけなんだから」
リアがパソコンから映し出した授賞式会場に向けて絶叫し、手を伸ばす私。
……ところで、待って?
私、アレと同レベルで
「おっと、マスターのお休みタイムが終わったぁ!
さらば、フーたん! また入浴時に会おう!
て、変態かよ、私はぁ! ノーマルだぁぁぁぁぁ!!」
「フー。
ミキー、ギュー」
「ふぅぅぅぅぅたぁぁぁぁぁぁんっ!!
寂しかったよ、会いたかったよ、悲しかったよぉぉぉぉぉ!!」
あ。同類だったわ。
「それでは、元通りかつ時間になった
その名も、ずばり!!
ヒィィィィィロォォォォォハァァァァァァルゥゥゥゥゥ!!
オン・ステージィ!!」
「
私が、
「……ヒーローだからだ」
飛び切りのイケボでクールに締め、聴衆を沸かせ、「ありがとう、そして感謝する!」と、溢れんばかりの拍手に手を振り応える。
「暑苦しいアトラクション、ありがとう!!
熱量なら、私も負けません!! どんどん行きましょう!
続いて第2位!! こちらもフーたんに負けじと、おかわわわ!!
多方面型クイーン・オブ・可愛い!!
呼ばれて登場、アァァァァァカァァァァァリィィィィィ!!」
「や、
恥ずかしっ……!?」
「おぉっと!!
赤面かーらーの、お約束、十八番、シームレス衣装&髪型チェンジ!!
それもその
その思い出し笑い、イメージにより、可愛さ担当の彼女に影響が出るのは当然の流れだぁぁぁ!!
お
「い、
もぉ無理ぃぃぃ!! お家、帰るぅぅぅ!!
バッファァァァァ!!」
「ところがどっこい、帰れません!
なぜって!? あなたが、第ニ位だからですっ!
あと、そろそろ慣れてください、我らが姫ー!! あなたもう、何度も言われてるでしょー!?
同じく口癖の『もぉ!』、『お家、帰るぅ!』も宜しく!
アカリ可愛いよアカリー!」
ピンクを基調としたドレス姿への早着替えを余儀なくされた
あれで計算じゃないというんだから、
ナオくんの大好物だからなぁ、照れ顔……。
「続いて、第3位!
……は? 私? あー……そういや今日、神回観て来たんだっけ。
って
自分の紹介なんてしても詰まらないので巻きまーす、はい次ー」
……普段あれだけ派手に騒いでる
「不公平だぞ、レナくん!
君のコメントを心待ちにしている視聴者の事も、少しは敬いたまえ!
だが、私が許そう! なぜなら、私は!」
「『ヒーローだから』ですね、はいはい、分かりますー。あと、勝手に入って来ないでください、座っててー。
ほいでは、第位ー。今日のお昼ご飯がスイーツ尽くしだった
この甘ったるさ! 観てっ! そしてぇっ!! 聴ぃぃぃぃぃて、たっのっしっむぇぇぇぇぇっ!!
立って服着て喋ってるぅ!? 歩くお菓子図鑑!!
アァァァマァァァネェェェェェ!!」
「えー、
それっティラミス〜、可愛いアマネの実力じゃないって
プンスコプリン〜、チョコレっと可愛く怒っちゃいますヨーグルト〜」
「相変わらず、
そして、美味しそう!」
「食べたいんでスムージ〜?
自分でどうにかしてくださイチゴパフェ〜。
これは可愛いアマネが、可愛いアマネの
皆さんに分ける理由は無いのでスフレ〜。
アマネは、可愛いアマネさえ幸せなら満足でスコーン〜。
仲間とか同士とか同族とか友情とか、知ったこっちゃないでスモア〜」
「だだ甘なのは自分に対してだけなのも、相変わらず!!」
スイーツをテーマにしたファンシーな衣装で全身をコーデしたアマネが、持ち前のスイーツ・ギャグ、そして唯我独尊的な発言でギャラリーを笑わせた。
いや、ナオくん、女性の趣味、悪くない? ハードル低過ぎない? 幼くない? 私の立場!
あとギャグ、ノッさ◯とゼロワ◯より
「続いて第五位!
昨日、新しくお気に入りのカラーの靴を買ったばかりなので人気急上昇!!
ビビッドに行こうぜ!! ビィィィィィビィィィィィ!!」
「いや、低っ!! 順位、低っ!!
え、そんなバフかかってて、この程度っ!?
低っ!! マジで低っ!! 」
「どんだけ『低っ』言っとんねん!
あんたの言動に引くわ、トラックで轢くぞ、こらぁ!!
低い自意識に反して、テンション高っ!!」
「倍にして決め
私、レベル低っ!!」
名前、そしてカラフルな見た目に反してビビってばかりのビビを華麗にスルーし、
「気を取り直して、第六位!!
ここで、我らが心の嫁の登場だ!!
アスファルト出身、噛ませ超人速攻!!
こんなに可愛いのに、
ロックでキュートな
ロッッックッッットォォォォォッ!!」
「シカッとご紹介に預かりました、ロクトで〜っす!
キチッとした演奏の前に、レナがドカンッと言ったのは別の
それじゃあギュインギュインな新曲、『
ガガッとズドッとダダンッと、行っくよ〜!
チャンッと聴いてくれない悪い子は、地獄の果てまでゴワンッと呪っちゃうぞ〜!!」
いや、うん。
「それではロッくんの新曲をBGMに、第七位!!
笑いこそが万能薬!!
コメディ風メディスン、お笑い担当、メェェェディィィイィィィ!!」
「ち……! な……! ま……! と……!」
「『ちょっ! 7位とか! マジウケる! とりま、これからもよろ!』だそうです!
ツボってばっかりのメディが
正解だったらしく、
「それじゃあ、次、第八位!!
昨日は遊んでいたからかランクダウン!!
小説王に、おれはなる!!書籍担当、フゥゥゥゥゥミィィィィィ!!
……はこの場に
そろそろ出て来ぉい!! これまで一度たりとも、この場に出て来てないって、どういう
普段、要らん
ちょ、殴んなし! あと、隠れ身の術、解けしっ!」
インク、
色んなブレストと話して来たけど、私はどうもフミだけはいけ好かないので、
「あー、助かったぁ! 仕切「呼んだ……?
って、また
あと、そんな、世界中の美食屋が一瞬、鼻を摘みそうな、悪臭戦隊みたいなのステージ上で食べんな!!
てか、聞くからに地雷っぽい!
以上、食べ物担当、第九位のシキでしたー!」
「匂いは消してる……。あと、きちんと
それと今のは、そっちが紛らわしい言い方したから……」
フーたんと同じ
同時に、視覚的かつ味覚的に恐怖を抱いたホビッグ達が一斉、立ち所に距離を取る。
「ラスト、第十位!
遊び好きなれども遊ばれない!! 断じて遊び人じゃありません!
ゲーム担当、ユウ選手ぅぅぅぅぅ!!」
「今回も、実に
「どうやら彼の辞書には『泥仕合』という言葉は無い
お前、毎回、言ってるだろ! 感動してばっかいないで、讃える方か讃えられる方の身にもなれ!
以上、ライキングでしたー、また明日ー!!」
オチ要員としてユウが弄ばれたタイミングで、今日のライキングは終了し、ホビッグ達は解散、ワープした。
視聴してるだけだった私達(フーたん以外)も、徒労によって誰からともなくグダッとした。
「相変わらず……個性というか、一発ネタの化物達ね……。
胃もたれしそうだわ……。
胃、無いけど……」
「
私達が未だにライクイン
「……あんたが入り込めないのはボスが、ラブコメには興味津々の
そもそも、私達はともかく、風呂とか
「リアさんが入れないのは、小説家を目指してる
「ま、まぁまぁ……」
「フー。ケンカ……めっ」
メンチを切っている二人を、フーたんと一緒に宥める。
ま……気持ちは、分かるんだけどね。
私だって
それに何よりナオくんには、もっと自分を好きになって欲しいし。
あー……でも、あれかな? 1位=ナルシストって
だったら、ちょっと
※
「……ん?」
自宅に戻った私は、テーブルの上に見慣れない物を見付けた。
……変身ブレス? ……ううん。似てはいるけど、この形状のアイテムは初見だ。
「
えーっと……。
「び、ふ、れ、す、と……。
……『ビフレスト』?」
確か、あれだよね。マイティー・ソ○で出て来てた、世界を繋ぐ橋の名前。
でも、にしたって形状が明らかに違う気が……。そもそも、こんな小さくない……。
などと記憶を家探ししていると、不意にビフレストとやらが私の右手に装着される。
「え、え!?
何、何、何ぃ!?」
戸惑う私を他所に、私の体は勝手に、ビフレストを着けた右手を掲げていた。
次の瞬間……目が焼けそうな眩しい光に包まれ、私は意識を失った。
※
「おねーちゃーん。
だいじょーぶ?」
「……ん……」
フーたんを男の子にした
「いっ……たぁ……」
何やら痛くなった全身に鞭打ち、どうにか上半身だけ起き上がらせる。
頭を押さえつつ瞼を開いた先に映ったのは、一面が灰色に染められた景色だった。
「……どこ……?
ここ……」
俯いていた私は顔を上げ、
こちらを遠巻きから心配そうにチラチラと窺う、奇異さへの興味を含んだ視線。
ライキングを発表している訳でもなさそうなのに、何だか妙に騒々しい空気。
ここまで判断材料が出揃えば、もう結論は一つしか足せない。
「もしかして……人間?」
私を起こしてくれた男の子は、座り込んだ私と目線を合わせつつ、不思議そうに首を傾げた。
「……?
おねーちゃんもでしょ?」
「あー、まー、うん……。
そう……かな?」
言った
て
「あれ?」
ビフレストを装着していた(正確には、させられた)右手首へと目線を下げるも、視認が
……え。もしかして、あれ、片道切符的な物だった? 一度使ったら消滅する、的な?
て
「詰んだ!!」
先程までとは違う意味で頭を抱え、「うゔぉぉぉぉぉ……」と奇声を発し呻きながら下を向く。
えー、何それ! こっちに来れたのは最高だけど、向こうに帰れなきゃ意味無いじゃん!
ライキングが無いと、ナオくんが自分を
それじゃ、
「はっ!!」
ここに至って私は大切な、優先すべき
「ねぇ、ボク!!
この近くに本屋さん、無いかな!?
そこに、私の
ややビクッとした(ごめん!!)
「あ……あっち……」
「向こうだね!! ありがとっ!!
ギュ~!!」
お金など、お礼として渡せそうな物を何も持っていなかった私は、フーたんにするみたいに男の子にハグをした。
ちょっとグレーかもだけど、この子を恋愛対象としては見てないし、感謝はきちんと伝えなきゃだし、今でも間違い無くナオくんに一途だし、セーフだよね!?
「よーっし」
男の子から離れた私は、(本来なら必要は無いけど気持ち的に)準備運動を済ませ、最後に再び男の子を見る。
「色々、親切にありがとっ!!
男の子の未来に思いを馳せつつ、私はクラウチング・スタートの姿勢を取り、その場から駆け出した。そんな私に、男の子が大声をお別れの言葉を届けて来てくれる。
「おねーちゃんも可愛いよぉ!!
あと、よく分かんないけど、ナオくんって人も
「ありがとぉぉぉぉぉ!!」
私よりもナオくんが褒められた方が
てか、
そんな性格イケメンと別れた私は一路、ナオくんのバイト先を目指すのだった。
※
『
てか、
それから
ホッとした
どうやらビフレストは通信も
「むー……」
コスパばかり気にする
そんな彼女に感謝、懺悔をしつつ、私は頬を膨らませた。
「……リアさ。
『……っ!!』
向こうで、言葉を詰まらせた
ははーん……やっぱり、そうなんだ。
「ま、別に
でもさぁ。あんまりだと思うんだ。
私、いつも言ってたよね? 『ナオくんと同じ世界に行けたら、ナオくんと直接、話せたら、きっとナオくんはナオくんを好きになってくれる
何度も何度も。来る日も来る日も、言ってたよね?
なのに、フーたんは子供だし可愛い喋るの苦手だしし多忙だから除外するとして、リアもロマもユカリも、
あんっっっなに普段から、常に一緒に
『……』
言葉を失うリア。向こうで疲れた顔をしているのが、容易に
『あんたって……どうしてこうも、要らん時に要らん
「今、そういうの、どうでも
そういう話をしてるんでもしたいんでもないんだけど」
『真偽なんて、それこそどうでも
あんたの言う通り、
てか、今のブレストだったら全員、知ってたわよ。
あんた以外は
「あっそ。だと思った」
リアの自白に、私は素っ気なく返答した。
「で?
『……あんたが、特別だからよ』
「何それ。
確かに私は長い間、眠ってたりしてたし、世間知らずだし子供っぽいけとさ。
にしたって、仲間外れにする
普段、リアに対して塩対応っぽく振る舞ってばかりいる私は、本来なら言えた口ではないと。実際、罪悪感だって
でも、それすらも上回る、忘れる
ナオくんを変えられたかもしれないチャンスを意図的に伏せられていたから?
……ううん。それだけじゃない。
何だかんだと言いつつ、私はリアの
それでも、こんな私に何だかんだで付き合ってくれてるリアの
……私って、自分で思ってた以上に面倒だったんだなぁ。
ナオくんに申し訳が立たないや。
『……諸々、謝るわ。
でも、これだけは信じて
仕方無かったのよ。
「……意味分かんない。
私の願いは、ナオくんに自分を好きになって
『
あんたは、ビフレストの使い方を根本的に誤ってるって
そして、あんたの覚悟に反して、あんたが
そして、ブレストが人間、特に主と直接的に関わる
「……」
私が今、最も聞きたいのは、ビフレストの詳細なんかじゃない。『どうして、私にビフレストの存在を明かしてくれなかったのか?』、この一点に尽きる。
だってのに、リアは頑として、本題に触れてくれない。私の気持ちを、
「……ごめん。もう
ロマに代わって」
『任意に変えられるわよ。あんたが願えば、オートでね。
あと、尋ねる相手を変更した
お願いだから、もう少しだけ時間を
別に
まだ時期尚早、ただそれだけの話なのよ』
「私にとっては、遅過ぎる
依然として
『ご機嫌よう、ミキさん。ただ、その……』
電話口から、ロマのシリアスな声が届いた。正直、面食らった。
一回り分に
若干、気を削がれた私は、開き直る
どうせ
もどかしい心境を我慢し、スイッチを切り替え、それでも私の助けになろうとしてくれているロマの気持ちに応えよう。
それと、
「……ううん。
大丈夫。気にしないで。
それより、ロマ。ナオくんの今のタイプとかって、分かる?
いや、今の私が理想のヒロインだってのは重々、承知なんだけどさ。アクセント? スパイス? そういうのが
あと、いつもの調子に戻ってくれない?
いや、私に合わせてくれたっぽいのに、ごめんだけどさ」
『……分かりましたわぁ。
そういう
ふふっと、私は笑った。やっぱり、こっちのが落ち着く。
まさか、このトロけそうな声と喋り方が恋しく思える日が訪れるなんて、夢にも思わなかったなぁ。
「うん。
ありがと、ロマ」
『あんた達……まだ
「ぎゃっ!?」
『あらぁ』
突然リアの声が割って入って来て、私は盛大に、ロマはのんびりと驚いた。
び、
シンプルな作りなのに、意外と便利だなぁ。
『……ま。別に
リアに確認され、ハッとした。そういえば、リアに謝らなきゃだった。
「り、リア。
その……アレな
いつも難しい顔してる上、怒らせるだけの心当たりが
しかし、リアは小さく
『あら? 普段から妙に噛み付いて来る
ま、許してあげなくもなくってよ。
認めるのは
「〜っ!!」
な、何さ!? その反応!
こっちは散々ヤキモキしてたってのに!
「ふ、ふんだ!! 知らない!
それより、ロマ!」
『作戦会議、ですわねぇ。
畏まりましたわぁ』
『……先が思いやられ過ぎるわ』
「いつまで参加してるの!?」
『
つまり、あんたの本心は
「あ〜、あ〜、あ〜!!
聴ぃこぉえぇなぁいぃぃぃぃぃっ!!」
『……
そんな感じで仲直りも済ませたらしく。いつも通りに戻った私達は、あーでもない、こーでもないと話し合いを始め。
一通りディスカッションを済ませた
※
現実世界の、未だに少し慣れない、大人のナオくん。
本人にその
ま、知ってたけどね。
ちょくちょくモニターしてたし、そうじゃなくても、私の愛して止まないナオくんは、悪い子になんてなり
こんな、風変わりで突飛で危ない面ばっかな私の
ナオくんと一緒に
『一刻も早くナオくんに、
そんな怪しい、乱暴な形で、関係を変えたくない、壊したくないと思う
だって、ナオくんはまだ三十路。
だったら、ナオくんの気持ちを尊重しつつ、ナオくんをリードしたり励ましたり叱ったりしながら、連れ添う
私が共に味わえなかった、12年もの歳月、穴を埋められる
ーーそうなれるなら、それで、それだけで、満足だったのにな。どうして、こうなっちゃったのかな。
やっぱり私は、要らなかったのかな?
ナオくんにとって邪魔、天敵でしかなかったのかな?
私がした事は
所詮、私達は……心を通じ合えない、出逢ってはならない運命だったのかな?
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