Re:port 2.5/ミキは許せない

「いやー、なんとかなったねー!

 こりゃ、帰ったらフーたんから一杯、ご褒美貰もらわなきゃなー!」

 ナオくんの職場からの帰り道。前を歩く私は、そう言って後ろ、リアの方に体を向ける。



「……いつももらってるじゃない。

 てか、あの子、今頃居なくなってるわよ……。ぼちぼちお風呂か、眠気がピークに達してるタイミングじゃない……」

「ガーン!! ……そうだった。

 フーたん、ああ見えて多忙だからなぁ。大役を兼業してるし」

「……そうね。本来なら、あたし達なんかが関わるなんて烏滸おこがましい存在だわ。

 ところで話、戻るけど……」

 少し強引に流れを切り、これ聞きよがしに溜息ためいきを吐く。



「……どこが『何とかなった』のよ。

 突貫工事も良い所だわ……。欠陥だらけ通り越して反省点しか無いもの……。恥辱の極みよ……。

 これだから、アドリブって嫌いなのよ……。あたしは常に完璧じゃなきゃいけないのに……。

 計算、計画通りじゃないだなんてあたしの美学、スタイルに反するわ……。

 恥ずかしいったらありゃしない……」

「まーた意識高い事言ってるー。

 別に良いじゃーん。結果的に切り抜けたんだからさー」

 両手を組んで頭の後ろに運びつつリアに近付くと、俯いていた彼女は勢いよく顔を上げ、私の両肩を掴む。



いなよ……。

 犬原って子はさておき、二人の目は明らかに憐憫れんびん猜疑さいぎ心を帯びていた……。いいえ……むしろ、満たされたと断じても過言ではない……。

 そりゃそうよ、うふふ……。あんなの、どう考えても思い返しても言い繕っても、常軌を逸脱してるもの……。ドン引きしてもありなんよ、難ありよ……。

 あたし、完全に変なやつ認定されたわ……」

「……うん。

 今も充分、│変なそうだけどねー」

 私の地味にひどい一言を受けてもリアのテンションは治らず、私の肩から手を離すと、次にリアは自分の頬に両手を当て不気味に笑う。



「これであたしも晴れて、あなたと同じブラック・リスト入り確定……。今頃、これからあたし達をどう扱おうかと審議してるに違いないわ……。

 仕方無いじゃない、時間も準備も致命的に足りなかったんだもの……。

 そもそも、あなたはともかくあたしまでは、こっちに来るもりなんて毛頭、無かったのに……。

 面倒なだけなんだもの……」

「えー。そうかなー。

 私は楽しんでるけどなー」

「あなたは、何も知らないから、そんな呑気な事が言えるのよ……。

 前に散々、念を押したはずよ? 『リスクに反して、得る物はさほど多くないし有益とも言いがたい』と」

「むっ」

 流石さすがに聞き捨てならなくなって来たので、リアの隣を歩いていた私は足を止め、ヒスりながらも私の方を気にして振り返ってくれたリアに、つっけんどんに返す。



「……違うじゃん。

 『私が、何も知らない』んじゃない。

 『みんなが、私に教えてくれない』んじゃん。

 そりゃ危険だとか何とかは耳タコだけど、何がどう危険なのかは、具体的には教えてくれなかったじゃん……。

 いや……それどころか、こっちの事さえ秘密にしてたじゃん。

 私だけ……仲間外れだったじゃん」

「ミキ……」

 それまでとは似て非なる原因で落ち込み始めたリアを無視して横切り、私は彼女を置き去りにするように早足で進む。



「言っとくけど。

 確かに私は勝手だし、その所為せいでリア達にも迷惑かけてるけども。

 それを差し引いても私、フーたん以外のみんなこと、憎んでるから。

 今のままなら、ずっと、許せないから」

 それだけ言い残し、私はリアの前から姿を眩ませた。



「……言えるものなら、とっくに言ってるわよ」



 ーーリアの、そんな本音にさえ、気付かないまま。

 ちっとも気付きづこうとしないまま。

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