Re:port 1.5/ミキは出たい

「は〜……」

 に一旦、帰った私は盛大な溜息ためいきこぼしながら、眼科に広がる町並みを、何を思うでもなく考えるでもなく、ただボーッと、座りながら眺めていた。



「ドン引かれた気がするー……」

「まぁまぁ。気にしないでくださいまし、ミキさん。

 この間にきっと、お二人の間では、愛が育まれておりますわ」

「むー……」

 隣に座ってる、完全に他人事なロマに向けて、私は少し怒りながら立ち上がる。



「そもそも、ロマがいけないんじゃん!

『彼は、後輩くんを愛でていらっしゃるから、それを参考にしたら如何いかがかしら?』って!」

「ふっ。浅ましいわね」

「何をぉ!?」

 我、関せず感マックスで隣でパソコンをカタカタ叩いているリアが、いきなり会話に入って来る。

 ってもいつも通り、ちっとも目線は寄越さないけど。



「コスパが悪いのよ。

『好きです。付き合ってください』。この一言さえ噛ませば、事足りるじゃない。

 なのに、くどくどくどくど、回りくどいったらありゃしないわ。

 大体、あなたとあの後輩くん、大してキャラ違わないじゃない。

 余計に、無意味だわ」

「そんなビジネスライクな感じで、済ませたくないの!

 こういうのは、フィーリングが大事なんだから!」

「そうですわ。もっとイベントをこなさなくてはいけませんわ。

 そのためにも、ミキさん」

「うんっ! 次のキャラ作りだね! 頑張ろっ、ロマ!

 あ、リアも特別に混ぜてあげる! ボッチは可哀想だし!」

「そもそも、あたし達全員、ボッチそうなんだけれどね。あれと比べたら」



 リアがめずらしく目線を上げる。

 その先にでかでかと眩しくそびえるのは恨み、そしてそれ以上に憧れの深い、夢の証。



「……っ!!」

 悔しくて、苦しくて、私は座り直し、泣きそうになりながら、彼方かなたの仇敵を見詰める。



 ……分かってる。

 こんなの、途方の目標ことだって。

 馬鹿バカげてるって。異常だって。反則だって。



 でも。それでも私は、叶えたい。

 だって折角せっかく、この世界に、この体に、生まれたのだから。

 この仕事と命を与えられたからには、一番になりたい。

 それが無理ならせめて、一度だけでもいから、あそこに名前を連ねてもらいたい。

 誰だって、そう思うよ。だって、それが私達だから。



「フー。

 ミキー。ギュー」

「ん?」

 決意を新たにしていると、不意に私の膝の上に我らがアイドル、フーたんが座る。

 透かさず、私は夢中で抱き締める。

 相変わらずのぬくさ、そしてお花とフルーツとお日様の香りに、心身共に癒やされ、満たされる。

 鳥のパジャマもベストマッチだし。本当ホントアニマル系、似合うなぁ。



「よーっし……明日も、頑張るっ!

 明日こそ、フミに気付かれる前に、運命を塗り替えてやるっ!」

「フー。

 ミキー。がんばー」

 意気込む私に、眠いのを我慢して合わせるフーたん。

 もう、本当ホントサイカワだよ、この子。



「いや……根本的な問題として、世間知らずミキロマンチストロマバリキャリわたしが力を合わせたところで、改善と解決の目処は立たないんだけれど……。

 ま、それはさておき。たった今、レナからプレゼントが送られて来たわ」

 言いながらリアは、私達の方にパソコンを動かし、画像を拡大させて見せた。

 私を初めてきちんと認識した時の、ナオくんの顔を。



「……ぷっ」

「くっ……」

 誰からともなく吹き出し、やがてリアすらも抱腹絶倒となった。

 それくらい可笑おかしく残念な、それでいて可愛らしい驚き顔だった。



「ちなみに、この時の心情。

『俺に好き好んで声をかける人間とか、この世界にない』……ですって。

 当たらずとも遠からずというか……」

「い、るもぉん!

 私が、ちゃんと!」

「いや、ミキはこっち側でしょうが」



 そう。

 私と彼とでは、住んでる世界が異なる。

 その尺度は、それぞれだけれど、決して少なからず、違っている。



 でも、そんなことはどうでもい。

 私は、彼が一番、愛する人となる。

 そのためにも、彼をもっとも愛する。

 それが、それこそが、それだけが、私の使命なのだから。



 ボッチ仲間せんゆうとオアシスに固く誓い。

 フーたんをハグしつつ、再び、作戦会議を開始するのだった。

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