どろだんご

あきふれっちゃー

つぐみとアリス

「わたしアリス。 あなたはどうして一人なの?」


 その声と差し出された手に、俯きがちに砂場でおままごとをしていたつぐみは、四つ作った泥団子を足元に置いてから顔を上げた。

 混じりけのない金髪に人形のような端正な顔立ち、可愛らしいお洋服を着たアリスと名乗る少女。つぐみは頬に砂埃をつけた顔で弱々しく聞き返した。



「わたしはつぐみ。 どうしてわたしに声をかけるの?」

「うーん、だってさみしそうだったから」



 アリスはあっけらかんとした様子で答えた。そこに疑問を持つ必要がないという風に。

 そしてつぐみは、おずおずとその手を取った。小さな二人の手は固く握られ、永遠とわに離れない気すらした。

 アリスは、つぐみが取った手をぶんぶんと上下に振った。あまりの勢いにつぐみは頭ごとがくがくと揺れ、黒いセミロングの髪の毛がばさばさと振り乱された。アリスは天真爛漫に笑う。



「今は何して遊んでたの?」

「お砂で、おままごとしてたの」

「アリスもまーぜて」

「……うん」



 アリスの無邪気な笑顔につぐみは押し負けるように頷いた。


 それから二人は毎日一緒に公園で遊んだ。砂場でおままごとをしたり、並んでぶらんこに乗ったり、おっかけっこをしてみたり。

 二人にとってそれは輝くような毎日だった。つぐみも徐々に、徐々に無邪気に笑うようになった。アリスに心を許していく。アリスはいつでも無邪気に笑って、つぐみを先導した。つぐみの手を引いた。つぐみもそれを喜んで受け入れて、二人で日が暮れるまで遊んだ。時には、日が暮れてからも遊び続けて親に怒られた日もあった。


 けれど、幼き頃からも人生とは常に順風満帆とは行かないものでやはり転機は訪れた。

 その日も、彼女たちは二人で砂場でおままごとをしていた。しかし、どことなく空気が重い。アリスもつぐみも、幼いながらも空気を察することができない歳では既になかった。



「アリス、おひっこしするんだって……」

「え……」



 アリスは沈痛な面持ちで切り出した。親の都合による引っ越し。幼き身にはどうすることもできない社会の流れ。アリスの言葉を聞いて、つぐみは雷に打たれたようにその場で硬直した。そのつぐみの様子を見て、アリスはさらに縮こまった。



「遠いの……?」

「うん……」



 幼き二人にとってはそれは永遠の別れのようにも思われた。おままごとをする手が止まる。

 


「つぐみ……?」



 つぐみは無言で立ち上がってアリスの手を引いた。目の光は寂しさをたたえている。

 公園から地続きにある林の中に立ち入る。つぐみの手はそれと思えないくらいに固く握られ、アリスは少し不安になりながらも手を引かれるがままに林の中に分け入った。

 そして、唐突につぐみは立ち止まった。



「わたしは、アリスと一緒に居たい」



 だから。



「手を合わせて、いただきます」





***





 つぐみは今日も砂場でおままごとをしていた。友達の分の泥団子を作らねばならない。

 今日は皆で仲良く家族ごっこ。お母さん役のつぐみ、お父さん役のしょうた、お兄さん役のかずき、妹役の、かずは。

 

 

「ねぇ、みんな。 今日はお母さんのおともだちが来てるわ」



 つぐみは泥に塗れた手で頬にそっと触れる。



「お友達のアリスちゃんです」



 そしてつぐみは五個目の泥団子を置いた。

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どろだんご あきふれっちゃー @akifletcher

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