5話 令嬢と侯爵
婚約は私の当初の予定通り「破棄された」という結果に落ち着いたが、なんだか納得できない結果になった。
本当だったらあの侯爵には現実をたたきつけて「女好きの屑侯爵」という称号を与え、華麗に婚約破棄をしたかったはずなのに、まるで円満解決したかのようになってしまっている。
どころか私の脳内には「なぜ婚約破棄をしてしまったのだろう……」という思いすら現れてきているため、むしろ状況は悪化しているような気がするのだ。
「リュリス様、夕御飯の時間ですが……」
「今日は気分じゃないわ」
「失礼しました」
「サミヤ、父上や母上はなんて仰ってた?」
「二人で相談してその結果になったのなら仕方がないと……、当然結婚してほしかったとも言っていましたが」
私の気分を察してかそれ以上は何も言わずに部屋を出て行ってくれた。
本当のサミヤの気持ちは私には分からなかった。侯爵との婚約破棄の計画も、そしてその結果も、彼女は全部私の味方になってくれたからだ。
アルベルン侯爵にはもう会いたくない。
でも、もう一度会って話がしたい。
今度は婚約破棄を言い放つためではなく、顔や体だけでなく、性格も変わったような気がする彼をもっと知るために。
それからもう一度判断をしたい、彼と婚約するかしないかを。
だから、もう一度だけチャンスを……。
といって神様に頼るような私ではない。
私はこれでもクランセル家の令嬢なのである。
自分の欲しいものは
とりあえず、その日はシャワーを浴びて寝ることにした。
婚約破棄を決定した当日にもう一度アルベルン侯爵に会いたいなどと言えば、色々言われることはまず間違いないだろう。
それに、侯爵に会うのはただ単にあの人とお話しするためではない。
様々な疑問を私の力でなるべく解消し、さらにその疑問に対して裏付けを取るためなのである。相手は元々屑侯爵なのだ、準備は多いに超したことはないだろう。
さらに、そうやって彼の情報を知っていくうちにこの気持ちが徐々に沈静化していくだろう、その頃にはまた別の人と婚約を結べるかもしれないし。
翌朝。
私はサミヤに起こされる前に起床し、冷静になって考えてみる。
なにせ、アルベルンには疑問が多すぎるのだ。普通に考えて半年や一年の間にあんなに体や性格が変わるものなのだろうか?そもそも、性格は何がきっかけで変わったのだろうか。
しっかりと調べるのなら、私一人ではなくあと何人か協力者が欲しいところ……
「朝ですよって、珍しいですね。今日は早起きですか?」
「サミヤ、手伝ってもらえる?」
「そこまでいきなりリュリス様の考えていることが分かるわけではありませんからね?」
サミヤは流石に分からないと首を傾げたのだった。
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