第4話 日常③
昼休みの時間になると、俺はイルフドと一緒に校舎の屋上に足を運んでいた。
安置されていたベンチに腰掛け、購買部で手に入れた好みのパンを食している。
屋上には他の生徒たちの姿もあり、ダンスの練習をしている一団もあった。
眩しい日差しの中で、皆それぞれに過ごし、時を楽しんでいる。
「そ、それで、だ。どうするんだ? 本当のところ……」
「どうするって、何がだ? このサンドイッチを分けてほしいって話か?」
「違う……れ、例のレターの話だ」
色恋沙汰の話が苦手なせいか、口ごもるイルフドだった。
「……それなら大丈夫さ。一人で決めたよ」
「だ、だから、どういう答えを出したか聞いているんだ……」
「うん、断ることにする」
「……そ、そうか」
「なにさ、その残念そうな顔は、お前は反対だったんじゃないのか……?」
「ああ、反対だ。反対だが、あの女子はガッカリしてしまうだろうな……」
「それでも、俺の気持ちは伝えないといけない。関係の修復はその後でも出来るはずだ」
「理由は何だ? やはり変化する生活は嫌か? いや待て、気持ちを伝えるって、そっちの話なのか?」
「――そっちさ」
「憧れの先輩から、変態の先輩になってしまうぞ……いいのか?」
「それでも言わなければダメだろう」
「まぁ……自分で決めたことのようだし、相談にも乗らないと言った以上、僕が口を出すようなことではないが、上手く話が収まることを祈っとこう」
そう言って、イルフドは傍らに置いていた縦長の紙箱型に入っている飲料水を口に含んだ。
「ランランららんららんラララ~~ん♪」
小型のギターを弾き、カラカラな声で歌いながら、飄々とした調子の男子生徒がこちらに近づいてきた。ベンチに座る俺の隣に、そいつは腰を下ろした。
「レレヤか……」
「ようイルフド、ホロムも元気してるか~~、顔つきが真面目ちゃんになってるぜぃ」
ボロ~ンとギターを鳴らし俺の顔を窺ってくる。
「ちょっとした決心をしたのさ、そっちは自由気ままで羨ましいよ」
「――いやいや、オレっちも今しがた一大決心を固めていたところなんだぜぃ……ほらっ表情固そうに見えるだろ?」
「いや、ニッコニッコな笑顔で言われてもな~~、で、何の決心をしたんだ。いや、まず俺から話すのが礼儀か……」
「ノンノン、言う必要はないぜぃホロムよ、聞かなくてもわかる。男子も恋するお年頃だ。青春の話だろ?」
「――わかるのか?」
「ああ、わかる。俺にも経験があるからなぁ。何かを決心するってのは、たぶん意中の相手に告白するときだな」
「――意外だな。レレヤにそんな洞察力があったとは……だったら何かアドバイスを――」
「オレっちに言えることはないぜぃ~~なにせ……」
一拍の間を開けて、
「男の恋心は~~女子には響かないのさ~~♪」
ギターをボロロ~ンと手を滑らせて弾く、レレヤの様があまりにも寂しく見えてしまった。
「そいえばレレヤは失恋続きと噂で聞いたな。ごめん忘れてた」
「気にしてねいって、オレっちの恋人はこいつで十分だぜぃ」
ベンチから腰を上げたレレヤが、手にしていたギターを自分の恋人だと紹介した.
自慢げに見せられたことに喜びを感じているようだ。
「……おいおい、どうしたイルフドちゃあん、さっきからだんまりしてさ」
「ああ、恋の話題にはついて来られないらしいんだ」
イルフドは黙々と食事を続けていたが、パンを口に運ぶ手を止めて話題を切り替える。
「……それで、レレヤの決心とはなんなんだ?」
「よく振ってくれたぜぃ、こいつ、ロザリーと一緒に世界へ羽ばたいてビッグになってやることさぁ~~」
またもギターを自慢していた。しかも名前まで付けているなんて変人と言っていいだろう。
「具体的な夢を持って、目指し始めたというわけか……」
イルフドが感心した様子で話した。
「おおさ! 黄葉の区域で毎年ソロギターコンテストが開かれるから、それに向けて今は練習しているんだぜぃ、まずはそこで注目されないと何も始まらないからなぁ」
「コンテストか……いつ開催なんだ?」
俺は少し気になってので聞いてみる。
「まだまだ先だ。けど、安心しな。開催日が近づいたら教えてやるぜぃ」
「ああ、じゃあ楽しみにしているよ(俺も叶えられそうな夢を持っていたら、こんな風に楽しく笑えていただろうか……)」
楽しそうに夢を語り、明るくギターを弾いているレレヤが、俺には少し羨ましかった。その後、俺たちは彼の弾くギターの練習音を耳にしながら食事を続けていた。まだまだ夢を叶えるには遠いだろう。
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