第477話 世界会議
中央大陸から、ファーラシア、アガーム、ラロル、トランタウにジンバット。
東大陸からはラロルと縁が深いアーランド。
南大陸からは、中央大陸との玄関口を有するミッドライムと、双璧を為す宗教国家グリンダ。
以上、八国の謁見の間と天帝宮の謁見の間を双方向性のカメラ、マイクを使って結ぶ。
そのための本体はトルシェにより天帝宮に設置され、各地の指導者の元には、配下に紛れ込んでいるトルシェの手下やセフィア眷属の真竜達によって支給された。
こうして、ユーリスがトルシェと接触して僅か半月後には、この世界で強い影響力を持つ国々と最高位真竜による世界の行く末を話し合う会議が開催されることとなった。
栄えある第一回の議長は、竜族一の苦労人。
発起人の真竜トージェンが務めることとなった。
「さて、此処に集めた者達はこの世界に無数ある勢力の中で、ある程度の影響力と余裕がある者達として、私が独断で選定した。
会議の目的は、今この世界に迫っている危機についてだ」
秒刻みのスケジュールで動く各国指導者達を集めたとは、思えないような高慢な開会宣言である。
しかし、
「「「お招きに預かり恐悦至極にございます!」」」
アガーム、ラロル、アーランドの三国は、本来セフィアないしトルシェを崇める集団である。
光栄と言わんばかりの態度で礼を述べ、
「「竜の姫君の御随意に……」」
宗教国家に分類されるトランタウ、グリンダの教皇達は、神の盟友とされる竜姫トルシェを尊重する。
「……我が国が招かれると言うのも違和感がありますが」
「全くです。
最近の状況では特に……」
大口の取引先であったマーキルやサザーラントの衰退で、やや国力を落とし気味のジンバット、ミッドライムの国王が困惑する。
その中で、
「……」
議長と同じかそれ以上に、世界危機の元凶と近しいであろうファーラシア国王レンター及びその配下はいたたまれない気持ちで無言となる。
ついこの間、元凶と思わしき某辺境伯と対面したばかりであり、そこで特に問題を起こしていないと言質を取ったばかりなのに、これである……。
「早速だが、大半の者は世界の危機と言われても首を傾げることだろう。
順に説明させてもらう。
発端は、人族が言うところの古代文明を崩壊へ導いた我が愚姉。
セフィアにある。
あの文明は、その命脈と引き換えに不肖の姉を世界の狭間へ放逐した」
「「「……」」」
胃の痛いファーラシア勢を放置して、全ての始まりとなった竜族の女帝の存在を語るトルシェ。
それに困惑の沈黙を返すしかない各国首脳部。
今よりも遥かに高度な水準となっていたとされる古代文明。
実際、遺跡から見つかるアイテムの中には、現在では再現不可能な強力な物も少なくない。
その文明が全てを賭して、相討ちに導くのが精一杯だった竜族の頂点の存在は、あまりにも彼らの認識を超えている。
「世界の狭間と言うのは、混沌とした空間であり、ありとあらゆる法則が乱れた領域だ。
幾らあの姉でも消滅は免れないと考えていたのだが……」
肉親が滅んだことを淡々と語るトルシェに、奇妙な畏怖を感じる人族達。
人に似た姿を取っていようとも、彼女は竜であり人ではないのだ。
その相違点が畏怖を招く。
「記憶の大半を失いつつも、魂そのものは崩壊せずにこの世界ヘ戻ってきた。
それが、今マウントホーク辺境伯を名乗ってファーラシア王国の貴族をやっている男だ」
「「「……」」」
一斉に向けられる視線に、レンターが俯く。
その視線は強い憐れみに満ちた物だった。
当然と言えば当然か。
竜族の頂点の生まれ変わりと言う、何時でも権力を奪おうと思えば奪えてしまう強力過ぎる配下。
それに気を使い続けながら、しかし、周囲には威厳を見せ続けなくてはならない。
加えて、
「本人の実力も凄まじいのでしょうし……」
「……ですな。
話の流れから言って、世界を滅ぼせるお方のようだ」
と、心理的にも物理的にも遠いはずの南大陸の主導者達の言。
古代文明を滅ぼしたと言う実績があり、今回もこのような大会議を開くことにしたトルシェの言葉を考えれば、件のマウントホーク辺境伯が世界を滅ぼせる力を持つ配下なのは想像に難くない。
誰がそんな厄災を身内に抱えたいと思うのか?
少なくとも、国を安定させることが仕事の王侯貴族にとっては出来るだけ近付かないのが正解だ。
しかし、
「さて、その前提を元に聞いてもらおう。
そんなダメ姉が、古代文明期の禁忌施設を発見し、破壊する際に手加減を誤って、この世界に付随する形で異世界が発生した」
「「「???」」」
続くトルシェの言葉に、指導者達の頭の中は?マークで占められる。
禁忌施設? 手加減を誤って? 異世界発生?
お願い、ちょっと待って!
と言いたくなるようなパワーワードの渋滞である。
だが、
「その異世界が単純にこの世界の延長であれば良いが、仮に別世界の融合であればそう遠くない内に、この世界に異世界の法則が雑ざり、滅びる可能性がある。
故に、異世界の調査を行う調査団へ人材を派遣せよ」
だが、トルシェがただの人族指導者に気を使うはずもなく、あっさりと世界の危機を伝える。
「こちらが求める人材は、一に鑑定系統のスキルを持つ人間。
次いで採取系スキル持ちである。
異世界の魔物等への対応は我々が行う」
それにより各国首脳部は、トルシェが世界会議等と大事を起こした理由を知る。
竜族に少ない鑑定系スキル持ちを寄越せと言う命令だったのだと……。
「しかし、我々に取っても鑑定士は重要な存在でして……」
「それは国よりもか?」
グリンダ教皇が異を唱えようとして、トルシェの返答に押し黙る。
端から見れば、パワハラ及び恐喝だが生憎と竜族にそんな文句は通用しない!
「……あの、竜姫様に仇なす気は毛頭ないのですが、うちの先生に関しましては」
「絶対にダンジョンから出すな」
生半可な話題ではトルシェの気を反らせないと判断したレンターは、トルシェが絶対的に回答を返すであろう質問をして、グリンダ教皇に助け船を出す。
「ですよね……。
能力的には最適ですが……」
「それは認めよう。
鑑定に加え、妖精種固有のはずの解析スキルを持ち、戦闘力も申し分なし。
前世に比べれば、まだ良識もある方だが……。
アレを異世界に送れば、冗談抜きで取り返しがつかなくなる!」
『うっかり世界を滅ぼし掛けるレベルがマシ』って。
各国の指導者達の頭には、戦慄と共にトルシェの言葉が響いたのだった……。
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