第469話 頭を抱える国王
「何でこんなことに……」
「アレが動くと言うことはこういうことよ。
理解したかしら?」
頭を抱える国王の前で、姉の現世を扱き下ろすのは温泉で少しリフレッシュしてきた姫竜筆頭。
自分達の国等、一夜で滅ぼせる最上位の厄災の来訪に恐怖を覚えつつも、何処かの黒竜よりはマシだと丁寧に迎え入れた王。
この時点でだいぶ毒されている……。
そんな国王の度量に感心しつつ、これなら現状を伝えても大丈夫だろうと、現在の周辺国の状況をありのままに伝える容赦のないトルシェである。
各地に情報網を張るトルシェの元には、精度の高い情報が各地から入ってくる。
対して、トルシェが伝えた中でファーラシア王国で把握していた情報は皆無。
隣国であるビジームやアガームの情報ですら、現時点では初耳であった。
……当然と言えば当然である。
今や中央大陸一の強国となったファーラシア王国。
その最終兵器が、本拠地を離れたチャンスを利用しようと一斉に動いたのだから、ファーラシア方面への情報規制に力を入れるのは国防上必須。
加えて、そういう情報を暴くための密偵は、先の内乱から機能不全が続いているのだ。
しかし、
「我が国の情報収集は課題として、問題は先生ですね。
何処をどうしたら、ちょっと失敗して世界を滅ぼしそうになるんですか……」
「……ですな。
力が強すぎるのも考え物とは……」
レンターとジンバル。
ユーリスによる被害を受ける頻度が高い、国王並びに宰相は遠い目で呆れ果てる。
「だからこそ、ダンジョンと言う遊び場で縛っておく必要があるの。
分かったかしら?」
現世姉の能力向上に対抗して、より強い包囲網を築くための根回し。
最高位の真竜が、わざわざ人間の国に立ち寄った理由がこれである。
「ましてや、この間みたいに、アレを戦場に送るような真似は控えなさい」
「肝に命じておきます」
サザーラントでの理不尽な活躍すらも、ユーリスがかなり手加減した結果だと理解を示すレンター。
こんな事を繰り返せば、その内、周辺国から反発を買うのは目に見えているのだ。
「……まあ不可抗力については問う気はないわ」
最も、あの戦争はユーリスが原因で起こったものである。
そこを履き違えて、弾劾するつもりはないトルシェだった。
逆に、
「……で、これ」
「……鏡ですか?」
プレゼントを用意していたトルシェ。
彼女が合図を送ると、執務室の扉が開き、自動で動く台車に乗った大きな姿見がやって来る。
「ドワーフ達に造らせた大鏡だけど、これには対になる鏡と距離を無視して、話が出来るようにしてあるわ。
つまり……」
「マウントホーク卿に関することは、この鏡を通じて相談せよっと言うことでしょうか?」
まさかの真竜トップとのホットライン開設である。
しかも、わざわざ鏡にした点は、
「そうよ。
互いの掲示情報も交換できるようにしてあるわ」
絵や表を用いた視覚情報の共有まで可能にする仕組み。
中世レベルの文化圏に、テレビ電話を持ち込む辺り、トルシェもまた十分に非常識である。
「もちろん、見返りも用意しているわ。
先ほど渡した周辺国の情報。
ああいうので、良さげな物を見繕って提供します」
「…………ありがとうございます」
それはユーリス卿の暴走を防ぐ上で、必要な情報を提供される。
……利用されると言うことでは?
と懸念を感じながら、間違いなく国益にもなるため拒絶出来ないジンバルが礼を言う。
「まず、急ぎではアガーム方面への食料提供を早めましょう」
「……それが良いわ」
加えて、レンターは先ほどの情報から、商人をアガーム方面へ促すことにするとトルシェに約束する。
それはビジームの内輪揉めとアガームの穀倉地襲撃の情報をもたらしたトルシェの思惑通りの動き。
ファーラシア西部の穀物が、ラーセンとドラグネアを経由して、アガーム王国へ運ばれれば、アガーム王国の情勢不安解消とマウントホーク領の安定に繋がる。
更に、ファーラシア西部貴族の王国への忠誠が増せば、ファーラシア王国の地盤強化だ。
……良いように利用されていると感じながらも、レンター達には拒絶出来ない状況であった。
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