第459話 フォロンズ王
「さて、貴国のご見解を伺えますかな?」
フォロンズ王国の謁見の間では、ラロル皇族の正装を纏う皇弟ベルトンが、簀巻きにしたフォロンズ海軍の将校を間に置いて、フォロンズ王と相対する。
本来ならば、成人を迎えた時点で身に纏う権利を失うはずの皇族衣装を、敢えて纏った状態での謁見。
ラロル帝国は今回の海上戦を赦さない、と言う国を代表する意思の表れだろう。
そう認識したフォロンズ国王は、数日前の自身の判断を後悔した。
まさか、ラロル帝国海軍の中でもフォロンズ方面の航路に明るい者達の大半が死傷した現状で、万全に近い北方諸島の正規兵に襲われたはず。
辛うじて退けるだけならともかく、後方支援をしていたはずのフォロンズ海軍将校が、捕らえられる程の一方的な被害を受けるだとは想定もしていなかったのだ。
しかし、現実は変わらず、
「先ほども申し上げたように、フォロンズ王国軍がグリフォン討伐に乗り出した我々を妨害した。
としか思えない状況。
フォロンズ国王陛下のご意見を伺いたいものですが?」
「しばし、お待ちいただきたい。
我々が魔物を利するはずもないと言うのは、当然の話。
不幸な行き違いがあったやも知れず……」
冒険者の国を喧伝するフォロンズ王国が、グリフォンを手助けしましたとは絶対に言えない。
冒険者は魔物退治の専門家でなくてはならないのだから。
しかし、
「不幸な行き違いとは?
我々がグリフォン討伐に乗り出す件は、事前に通達したはず。
その上でラロル帝国の国旗を掲げた船を襲う正当な理由が聞きたいものですな?」
ベルトンが追及を緩めるはずもなく、現状をしっかりと伝えた上で理由を迫る。
ないですよね……。
とは口が裂けても言えないフォロンズ国王。
そこへ、
「それとも、これらはフォロンズ海軍に擬装した海賊だったのでしょうかな?」
「……」
ベルトンから発せられる甘い甘い誘惑の声。
その誘惑に乗ってしまえば、この場での追及から逃れられると知りながら、安易に頷くこともなく、沈黙を続ける。
それは先祖である優秀な冒険者達の血が警鐘を鳴らしていたのかもしれない。
「海賊であれば、治安のためにも公開処刑等が良いでしょうね。
他の海賊の目もあるであろう港町で……」
「……」
案の定、ベルトンのもたらした言葉は猛毒。
命令に従った軍人を家族が観ている前で、処刑等すれば、国民の多くがフォロンズ王国へ失望するのが、目に見えている。
親達から少なからず海の知識を与えられている国民が……。
現役の海軍軍人に加えて、将来の海軍立て直しさえもより時間を要する羽目になる謀略。
結果、
「……海軍上層部の暴走やも知れません。
厳しく調査の上で、再発のないように……」
フォロンズ王の答えられる回答は、海軍上層部のせいだと主張するしかなかった。
自分達の命令だと言えば、ラロル帝国とファーラシア王国への宣戦布告とみなされるであろうし、海賊擬装も不可能となれば、最も傷が浅いのが軍部の一部が暴走したとするくらいしか残っていない。
「……そうですか。
その際は我が国の立ち会いも認めてくださるのでしょうな?
賠償に関しても……」
「出来る限り叶える所存でして……」
渋々と言う顔をしながら、受け入れるベルトンだが、海賊擬装の話を振った時点で、最初からその辺りを落とし処にする気でいたのは明白である。
再発防止を口実に、軍の一部を駐留させられる可能性に、暗澹とした気分になるフォロンズ王。
こんなことなら、ビーズ伯爵の言うように不干渉を貫くべきだったと後悔するのだが、
触らってしまった白竜の祟りは続く。
「……へ、陛下!
緊急事態です!
東の山脈の至る所から魔物の群れが降りてきている模様!
少なくとも4つの街から、スタンピードを報せる狼煙が!」
その祟りは、謁見の間へ駆け込んでくる兵士によって、フォロンズ国王の元に届けられたのだったが……。
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