第460話 ビーズ伯爵家の没落

 強襲してきたオーガを退けたミーティア国内では、立役者マウントホーク辺境伯家の名声が轟くことになり、逆に軍や行政府の不手際を批難する声が日増しに、高まっている状況となった。

 その現状に、オーガ襲来の原因が山脈中に残った父親と叔母(のようなもの)のせいだと、真相を知るマナが若干居心地の悪い気分を味わうことになる。


 しかし、そんな事実を知らぬミーティアの民衆としては、将来マウントホーク辺境伯家の影響力が喪失することに恐怖を覚えている状況。

 ファーラシアとアガームの間にあった複数の魔物領域が減り、それにより回り道を必要としなくなったフォックステイルのミーティア支店が縮小の予定。

 また、マナが卒業すれば、ファーラシアへ戻るのが確定しているのだ。

 ならば、旧ツリーベル邸等も売りに出される可能性があり、マウントホーク辺境伯家の派遣している兵士もいなくなることだろう。

 その時に同じような事態が起こったら?

 それはもはや恐怖でしかないわけだ。


 その状況に目端が効く者達は、いっそのことマウントホーク領へ移住しようと思い付く。

 まず、学園とは縁がないどちらかと言えば下流に属する住民達が、次いで彼らを相手にしていた商人達が続いた。

 結果、ミーティアに残ったのは、学園関係者とその家族に、冒険者達と言う両極端な住人達。

 異質な街と成り行くミーティアが、何処へ向かうのかは、未だ誰も分からない。






 しかし、ミーティアよりも悲惨な場所がある。

 ミーティア以上に多くの魔物が、侵攻してきたフォロンズの東側一帯である。

 フォロンズは高名な冒険者を招聘優遇することで、辛うじて維持してきた国である。

 だが、高名な冒険者の子供が優秀とは限らず、また体系的な教育を施される機会にも恵まれず、農業的にも産業的にも他国より遅れ気味な国である。

 そんな国が魔物の襲撃に耐えられるはずもなく、山脈沿いにある多くの街を魔物に明け渡す羽目となった。


 加えて、弱小国フォロンズが、未だに永らえてこれた理由が、ラロル帝国とトランタウ教国の間にあると言う立地による恩恵があるのだが……。

 その恩恵をより享受しようとして、マウントホークによるグリフォン討伐を邪魔しようとした。

 これにより、マウントホーク辺境伯家の属するファーラシアとラロル帝国に加えて、トランタウ教国からも不評を買ったわけだ。

 何処の国からも魔物討伐の協力が引き出せず、独力での魔物討伐が求められる羽目になるのだった。


 そんなフォロンズ国の南西にあるビーズ伯爵領。

 魔物の影響が最も少ないはずのその領地で、政変が起きようとは誰も思っていなかったはずだが……。

 現当主であるビーズ伯爵が爵位の返上を申し出て、それが王宮に受理されたのだ。

 元々、非主流派で味方の少ない伯爵家だが、トランタウとミーティアを結ぶ街道上と言う立地の良さで栄えてきた影響で、フォロンズ王国内でも力がある家だった。

 言わば目の上の瘤のような家柄。

 それが自ら爵位を返上してくれると言うのだから、フォロンズ貴族達が喜ばないはずもなく、早速、旧ビーズ領争奪戦が始まる。

 ……近年、やっと昇爵が叶ってこれから勢いを増すはずのビーズ家が、何故このタイミングで返上したのかといぶかしむ者もなく。


 振って沸いた好条件の領地に視線を捕らわれた貴族達は、様々な謀略にコネ、果ては武力をちらつかせた交渉まで重ねて、ビーズ領の獲得に明け暮れる。

 凄惨を極める東部の街や、いつの間にか行方を眩ませた元ビーズ伯爵一家を気にすることもなく……。

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