第442話 ちっぽけな戦争

 遺跡まで後少しと言う所で、やっと俺の接近に気付いた集団が、ぞろぞろと顔を出してくる。

 ……この時点で違和感。

 いくら何でも、この距離まで警戒心が無さすぎるだろう?

 地の利はあるかもしれないが、それでも異物の接近に鈍感すぎる。

 それだけ自分達の能力に自信があるのか?

 だが、そこからは早かった。


「貴様はユーリス・マウントホーク?!

 何故? だが!

 バカな奴だ! こんな所までノコノコやって来るとは!」


 誰だ? とかなしでいきなり断定された上に罵声を浴びせられたのだ。

 しかも、間違っていないので質が悪い。

 ……つい、


「……誰のことだ?」


 と惚けてしまう。

 何せ、こんな山奥に住む知り合いに心当たりがないので……。


「惚けるな!

 髪の色を変えた程度で、貴様の顔を誤魔化せると思ったか!」


 案の定、更に激昂して情報を漏らす。

 しかし髪の色が違うと言うことは、狼王討伐前に会っていると言うことか?

 当時の俺に恨みを買うほどの交友関係は、ないはずだが……。

 精々、ロランド閥の旧ファーラシア貴族くらいか?

 しかし、連中と顔を覚えられる距離で接する機会等……。


「大方、我々の反撃準備具合を探ろうとでも思ったんだろうが!

 1人でやって来たのが運の尽き、此処で貴様を殺し、簒奪者レンターを玉座から引き摺り下ろしてやる!」


 ……うん。

 喋ってる内容的にもロランド配下だったっぽいけど、マジで心当たりがない。


「……何処かであったか?」

「「「!」」」


 意気込んでいる男との会話をぶち切って、正直に訊ねると男以外も激怒したのを感じる。

 つまり、此処の連中は軒並み俺を恨んでいると言うわけだ。


「……貴様にとっては、自分の叙勲を見に来た有象無象か。

 だが! 我々は貴様のせいで被った被害を決して忘れない!」

「……ああ」


 さすがにそれを言われれば見当が付く。

 幾度か爵位や勲章の叙勲を受けたタイミングの内、群衆の中でのパフォーマンスがある。

 1番最初、ミーティアでの1回。

 となると、コイツらはミーティアで学んでいたロランド閥貴族の縁者と言う所だろう。

 となると、その縁者が何故このような場所にいるかだが、


「しかもだ!

 我々は特別な力を得た!

 少しばかり、剣術に秀でた下郎に天誅を下してくれるわ!」


 力を"得た"か。

 しかも中央には見るからに古臭い遺跡。

 此処まで来るとほぼ予想が付くんだがな。


「貴様の得意な根回しも、竜の女王を殺す力の前では無力だと知れ!」

「……やっぱり」


 俺の代わりに、納得の声を上げるミフィア。

 此処で別の目的のための設備、なんて言われるよりも遥かに納得の内容である。


「恨まれ過ぎでしょ……」

「と言うよりも、まともな攻略アプローチが思い付かなかったんだろうな……」


 だから、片っ端から思い付くままに実験を繰り返していた。

 その中には、非人道的な実験もあったのもエルフの1件で周知の話。

 今回も同じようなレベルの設備だろう。

 後付けでスキルを付与する等、少なからずの人間を犠牲にしていると予想が付く。

 スキル付与自体はそれ用アイテムがダンジョンから産出するが、人の技術で再現となると相当だろう。

 まあ、そんなことは目の前の連中には関係ないことなので、


「何をごちゃごちゃと!

 やれ! グリフォンども!」


 と、俺達の様子を無視してグリフォンに命じても可笑しくはない。

 まあ驚異ではないがな!

 少し立ち位置をずらしつつ、大きく剣を振るって、高速落下してきたグリフォン3体程を輪切りにする。

 そのまま、想定外の事態に固まる人間達を軽く薙いでいく。

 此処へ来るまでに、散々悩まされた分の八つ当たりも兼ねて……。

 何せ、この場にいるのは現ファーラシア王国への反抗を狙う明確な敵である。

 それが特殊な能力を有するなら、むしろ皆殺しにするのが王国貴族の責務である。

 例え、グリフォンと対話出来る能力者やグリフォン自体が意思疎通の手段を得ても、説得出来るだけの札になる。

 集落住民とグリフォンは一纏めで、殲滅か全員引き込むかの両天秤だろうと言う推測が良い意味で外れたわけだ。

 後の課題は、シンプルにグリフォン確保のみ。


「……遺跡の調査も忘れないでよ?」

「……分かっている」


 8割方、気の抜けた俺に忠告を入れてくるミフィア。

 それに同意するものの、半分くらい忘れていた俺。

 後顧の憂いと言う意味では最低限機能停止はさせたい遺跡だ。

 下手に残したら、リアルで悪役令嬢物語が始まってしまう危険性がある。

 ……冗談でも放置は出来ない。


「本当に?

 私達には影響ないからって、忘れていたんじゃないの?

 下手に私達の預かり知らぬ状況で、遺跡の利用者が現れれば、社会秩序の崩壊モノなのよ?」

「さすがに大袈裟だろう?

 若い集団はともかく、ある程度、歳を重ねれば素人が政治に口出す危険は分かっているものだろう?」


 所詮は魅了である。

 洗脳のような悪質さはないので、まともな保護者がいれば、社会から隔離してくれるだろう。


「お馬鹿。

 こんな山奥の遺跡よ?

 意図的に近付く人間が、無害な一般人のはずないでしょ?」

「……確かに」


 一般人が迷い込むより、それなりの準備が出来る地位のある奴が意図的にやって来る可能性が高い。

 ましてや、今回の遠征には帝国出身のゴレアスがいる。

 報告書に上げられれば、下手な野心家を生む可能性があるな。


「と言うわけで、しっかり調査しなさいよ?」

「……しょうがないか」


 出来れば避けない所である。

 いつぞやの時みたいに、俺の侵入と共に自爆するのが落ちだろうし……。

 だが、もしかしたら自爆装置が老朽化しているかもしれないわけで……。


 ……嫌だな。

 と思いながらも、遺跡に足を向けることにした。

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