第441話 まずは交渉

「見た感じは廃墟だな?」

「ええ。

 グリフォン達は、真ん中にある遺跡で寝起きしているみたい」


 配下に組み込みたいグリフォンと、全滅させたい特殊スキル持ちが共存していると言う難儀な状況。

 だが、そのまま放置と言う選択肢がない以上は、ひとまず現場へ赴いて、何らかの情報収集をするしかない。

 しかし、精霊と関係が深い人間では逆に取り込まれる可能性が高いので、必然的に精霊感応力の低い面子を選定。

 そうなると、俺とゴレアス、ミフィアの3人だけと言う笑えない事態になる。

 じゃあ、ゴレアスを連れてくるのも危険だろう?

 と言うわけで、たった2人? 実質1人? の登山と相成った。

 危険性を名目に足手まといのゴレアスを置いてきた分、気楽な山登りではあった。

 ……途中までは。


 上空を飛んでいる可能性があるグリフォンを避けるために、ただでさえ足場の悪い森の中でも、更に鬱蒼とした辺りを選びながらの山登りだが、ミフィアモードに拒絶結界を極小展開すれば、差程の苦もない。

 だが、ミフィアモードで相手の集落に近付けば、相手を警戒させるだけになる。

 なので途中からはユーリスに戻っての登山となったが、そうなると意外とキツい物があった。

 手足に絡まってくる草木は鬱陶しく、頭上から降ってくる蛭のようなモノが吸血を狙う。

 他にも有象無象の虫による攻撃に、気を散らされながらの登山は、かなりの苦行であった。

 ……正直な話、ミフィアモードで気配を完全に遮断していけば良いのでは? と言う誘惑に何度駆られたことか。

 それで向こうに感付かれても、不可抗力と強弁したい所だった。

 だが、セフィアの知識にないスキル持ちが相手である。

 俺達が絡んだことで、2次災害にでもなったら大問題。

 何せ、俺達がこの山脈に入っているのは周知の事実だし、関連付けられるに決まっている。


「……しかし、あれが曲がりなりにも、外部との交流なしで数百年維持されてきた集落だと思うか?」

「……ないわね」


 人と言うのは快適さを追求する生き物だ。

 少なくとも、住居くらいは最低限整えるだろうが、見た感じはテント擬きくらい。

 材料となる木材は周囲に豊富なのに……。


「……だよな。

 ミフィアが見たのは初めてなんだよな?」

「……ええ。

 霊狐達の情報を鵜呑みにしていたわ」

「下手に、万事そつなくこなすからな……。

 だが、家なんてさして重要じゃない生活だった霊狐から見たら……」

「テントも家も変わらないっと」


 テント擬きのあばら家とは言え、人が住んでいる気配があり、そいつらがグリフォンと共生している。

 霊狐主観ならグリフォンと共存する村である。

 まあ、今度からは確認はしっかりしましょうと言う話だが、今は差し迫った問題として、ゴレアスの情報を元にした前提となる知識が役に立たないと言う事実があるのみ。


「いえ、まだワンチャンあるわ!

 あのテント擬きは獲物の解体スペースで住人は遺跡住みならどう?」

「……ああ。

 確かに可能性はある。

 むしろ高いくらいか?」


 折角頑丈な建屋があるのに、近くにわざわざ他の建屋を建てる必要はない。

 実に理にかなっている発想だが……。

 あくまで可能性があるだけなんだよな……。

 何か、これはって決め手がほしいんだが。


「……まあ、あれこれ考えてもしょうがないし、道に迷った旅人の振りをして、堂々と潜入してみようかね?」

「それ、潜入って言わないわよ?

 正面突破ってのが正しいでしょ?

 ましてや、人間を排除してグリフォンを奪うわけだから、どう取り繕っても居直り強盗……」

「別に相手が、素直にこの山から出ないと誓った上で、グリフォンを譲ってくれれば、穏便に済むはずだ」

「それでも、強要とカツアゲでしょうに……。

 中途半端は後味が悪いんじゃないの?」


 呆れて肩を竦めているミフィアだが、後味と暈しているだけで、後々の禍根を残すなと犯罪を推奨している。


「……いや、俺達はグリフォン譲ってもらったら、さっさと去れば良いだろう?

 こんな、いつ土砂災害に巻き込まれるかも分からない土地から」

「……まあ山奥だしね」


 いくら遺跡があるような地盤のしっかりした土地でも、その遺跡が現役だった頃からは長い年月が経っているのだ。

 その間に気象条件や土地の形が変わっていても不思議ではない。

 こんな良い天気に見通しの良い土地で、土砂災害に巻き込まれるのも、ただの不運。

 ……としておく。


「けど、やっぱり下手に生き残る可能性を残すよりも、すっきり排除が良い気がするわよ?

 ましてやこの場であれば、犯罪ではないのだから……」

「……まあ、どう見てもあの集落は何処かの国に所属しているとは思えんしな。

 それこそ、法の拘束力の適用外も良いところだが……」


 突き詰めれば、国に属すると言うことは、税金と言う代価で安全を含む権利を買うことである。

 その安全のための手段には、他国と条約を結んで担保を造るような行為も含むわけだが、あの集落については、それらの要素が見受けられない。

 つまり、俺とあの集落の関係者には、犯罪が成立するための要素が欠落しているわけだ。

 敢えて言うなら、


「侵略と言う戦争行為が正しいな」

「戦争ってスケールじゃないわよ。

 1人対小集落じゃない」

「だが、実質で見れば戦争で間違いない。

 同じグループ内であれば、紛争だがな……」

「…………。

 土砂災害で片付けましょうか?」


 急に日和った。

 ある意味当然か。

 いくら当事者が俺とミフィアだけになると言っても、集団相手に戦争を吹っ掛ける奴ってのは外聞が悪い。

 それよりも、俺達は穏便に済ませましたが、どうやらその後土砂災害に巻き込まれたようで……、の方が多少の無害アピールに繋がる。

 ……各国上層部が、欠片も信用してくれない点は諦めた。

 連中の持つスキルの危険性を理解すれば、賛同しても批難はされないだろうから良いけどさ。


「……さて話し合いに行くか?」

「せめて、決裂してほしい空気くらいは隠しなさいよ?」

「無論だ」


 向こうから襲ってくれれば、あれこれ考えんで済むと見抜かれた俺は、さも心外と言う顔で反論しつつ、集落へ足を向けたのだった。

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