第401話 お茶会対策

 最初は、ウィルミナ眷属との小さな茶会であったはずが、ウィルミナ達が、天帝宮北のアイビス眷属領経由でやって来たせいで話が拗れた。

 ウィルミナ眷属は、ゼファート守護竜領であるレッドサンドから、更に南西にあるドワーフ都市国家の1つ『銅の都』周辺を本拠地にしているので、西のラディア眷属領か南のナーティル眷属領経由を想定していたらしいのだが、天帝宮とウィルミナ眷属領を繰り返し往き来するウィルミナ眷属真竜の存在に、不審を買ったらしい。


「こんな所にもテイファ不在の悪影響が出るとは!」


 ウィルミナがアイビスを連れてくると知ったトルシェが、最初に嘆いたのがその一言。

 それに対して、


「最初の段階でトルシェの端末を派遣しておけば良かったんじゃないのか?」


 と答えてしまったので、トルシェの恨みを買ったのは余談である。

 しかしアイビスがやって来るのは、実際大問題。


 何故なら、恩寵竜アイビスの能力は異性への強力な魅了能力。

 女系生物である竜種では低い扱いだが、その能力は雄として生を受けた全ての生き物を魅了する、生態系の破壊者になりかねない危険な魔法の持ち主。

 しかも常時発動型魔法バッシブで、本人にも制御不能と言う欠陥付き。

 加えてアイビス本人も癖が強い。

 まず、虫が嫌いなので天帝宮北の地域を氷原に変えてそこを居住域としている。

 ……まあ、これはしょうがない。

 所用で野宿をした際に、夜中にカサカサと言う異音で目覚めると、身体中に数多の虫が群がり、交尾を繰り広げていたと言う嫌な体験をしていれば、当然の話だろうと思う。

 しかも、雄同士で……。

 元来、虫は雌がフェロモンを出して雄を誘うが、狭い空間に密集してしまうと、他の雄を雌と勘違いして、交尾を行うことがあると言うし、そのパターンだろうと思うが、身体中を発情した雄の大群に這い回れられたらトラウマにもなる。

 アイビスから話を聞いただけの前世俺セフィアも、背筋が痒くなったくらいだし……。


 性格面で問題となるのは、アイビスが虐められたり、蔑まれると喜びを感じてしまう性質であること。

 しかし、自身の能力から異性にそういう扱いをしてもらえないと言うジレンマを抱え……。

 じゃあ、女の子にしてもらえば良いと、変な方向にぶっ飛んでしまった。

 一応、義務として何人か子供は産んでいるが、閨にもそういう仕事担当の女性を引っ張って行ったらしい。

 ……じゃないと子作り出来るほど興奮しないとふざけたことを言いつつ。


「さて、そんな色々と濃い真竜の来訪であるわけだが……。

 どうしよう?」

「ええ。

 姉上にはゼファートとして会っていただくしかないのですが、魅了されても問題ですし魅了されなくても問題なわけですから……」


 ウィルミナを無難にやり過ごす方針で、のんびり構えていた状況から、一転、2人揃って頭を悩ませているわけだ。

 アイビスへ対処しても、同伴者のウィルミナの視線がある。

 あの怠け者は意外と周囲を観察しているのだ。


「……片方ずつであれば、対応も楽なのだがな」

「それです。

 別々に対応しましょう。

 私が先にウィルミナの応対をしますので、姉上はアイビスを」

「……出来るか?」


 同伴で来る相手を自然と隔離する方法と言うのが、俺には思い付かないが、それ以上に問題がある。


「……恐らくは。

 ウィルミナには、テイファの件を含めて内密の相談があるとすればどうにか……。

 その間にアイビスの興味をなくしておいてください」


 いや、一対一なら多少マシだが、あくまで、トルシェが先にアイビスを牽制する前提よ?

 なんなら、2日くらい2人で自室に籠ってもらうくらいの牽制を……。

 その間にウィルミナをはぐらかせばと思ったんだが?


「…………ごめんなさい。

 1人で初発アイビス対応の方がキツい気がする。

 セフィアのノリとか出たら……」


 言っておいてなんだが、早々と白旗をあげる。

 自分の正体を隠すために、妹でハニートラップを謀ったことをバラすわけにはいかない。

 保護者同伴で、怠惰と愛欲の2大魔王に相対するのと、一対一でいきなり愛欲魔王と相対するのでは、前者の方がフォローがある分だけマシな気がするのだ。

 特にアイビスとは、仲の良い悪友のようなノリで付き合っていたので、下手を打てば勘繰られそうで問題だし……。


「……確かに。

 では、下手な画策はなしの方向でいきましょう。

 自然な感じを装うことで当たり障りなくお帰りいただく話です」

「いや、それなりにフォローしてよ?」

「無理ですよ。

 ウィルミナは行方不明の眷属調査で来るのですよ?

 下手に私が前に出れば、疑われるじゃありませんか」

「そうだった!」


 あまりに愛欲魔王アイビス到来のインパクトが強くて、ウィルミナの当初の来訪理由が頭から抜けていた。


「それじゃあ後は頼みますよ」

「おい!」

「女同士なら問題ないとか考えているなら、女性型に化けて対応すれば良いんじゃないですか?」

「……」


 頭を抱える俺を放置して、仕事に戻ろうとするトルシェを呼び止めたが、先程の思惑がバレていたことを匂わされては、それ以上の引き留めは出来なかった。

 ……どうしよう。

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