第374話 キリオンとジャックにおまけが1名
「それで、戦争勃発っすか?
相変わらず騒動に愛されているっすね」
「俺のせいじゃない!」
「まあ、そうっすけど……」
バロックに指示を出して、一路ファーゼルに移動した俺は、到着と同時にキリオンとジャックを呼び出した。
ベリア皇女の処遇を記した紙を添えて……。
その呼び出しに、一番最初に応えたのは呼んでもいない3番目の妹である。
探索者養成学校での講義に空きの有ったらしいロティが、呼んでもいないのにやって来て、心外な台詞を投げてきたので反論する。
「それで?
今日は何の用だ?」
当初は交代で俺を監視すると息巻いていた妹連中だが、他に優先することが出来たのか、或いは俺が思った以上に良識的に行動しているせいか。
約一年で監視を打ち切り、各々がファーラシア周辺で行動している。
……もっともその中で、ロティを学校の教師に押し込んだのは、俺だが。
「大したことじゃないっすよ。
忙しくなりそうな姉の顔を見ておこうって言うだけの話ですから」
「そうかい……」
意訳すれば、疲れてうんざりしている俺の顔を見に来たと言う所だろう。
良い趣味している妹である。
「そう膨れんで欲しいっす。
良い
……コホン!
サザーラントの旧首都であるサウザンポートは手に入れた方が良いわ。
あの街は、古代王国時代に大型の物流倉庫があったはずの場所。
地上には何も残っていないけど、地下には貴重な遺物がある可能性が高い」
「……本当か?
サウザンポートは、ルターから南西の海岸線沿い。
奪うことは十分出来そうだが……」
急に口調を改めたと思ったら、かなり有益な情報を出してきた。
問題は、この妹が姉妹の中でも飛びっきりの曲者だと言うこと。
自分の目的のために、人を口車に乗せるのが上手いタイプだし……。
「……多分、本当ですよ」
ロティへの問いに扉の方から返事が来たので、振り向くと、待ち人2人が入ってきた所。
「うん?
……キリオン? ジャックも一緒か」
「お待たせいたしました」
「遅れてすみません」
「構わん。
こっちへ」
頭を下げる2人に鷹揚に応えて、着席を促す。
「それでキリオンは、サウザンポートについて何を知っている?」
「大したことは……。
ですが、初代皇帝アミアが南大陸のトスカニア王国から独立する際に、幾つかの奇妙な術を使ったと言う言い伝えがあります。
お伽噺の脚色かと思っていましたが……」
「なるほど……」
サウザンポートの領事となったアミアが、独立してサザーラント帝国を建国出来たのは、古代王国時代の遺物を用いてか。
しかし、
「それなら有益な物は持ち出されているだろう?」
「そうでもないと思うわ。
古代王国時代よりも大量に土砂が堆積しているのよ?
大した手勢がいなかったアミアに発掘出来た量は僅かでしょうよ」
「……まあ、可能性はあるが」
使い道の分からない物や無用の長物が出る可能性の高い発掘より、農地を整備して確実な税収を取るのが自然だ。
しかし、そんな捕らぬ狸の皮算用でサウザンポートを奪う労力を割くのもな……。
サザーラント帝国発祥の地だし、アイリーン派閥もかなり本腰を入れて防衛するだろう。
逆に主戦場を限定することが出来ると言う点で、速やかに奪取出来れば利益は大きいが……。
「2人はどう思う?」
判断が付かないので政治と軍部のトップに訊ねる。
「……戦略的には奪う価値があります。
ルターへの攻撃を分散出来るでしょうし、ルターを南側から攻撃されることが無くなれば、防衛戦力を東に集中できますので」
ジャックは奪取賛成と、俺もその方が良い気がするんだよな。
「私は反対です。
サウザンポートを奪うと言うことは、ルシーラ王国の近辺に港を抱えると言うことです。
サウザンポートの方が遥かに大きな港ですので、ルシーラとしては面白くないでしょう。
高い造船技術を抱えるあの国と仲違いはお勧めできません」
対してキリオンは反対と、意見が割れたな。
キリオンの言っていることも分かるが、
「……そうですね。
補給線の安定を考えるなら、ルシーラを怒らせるのは怖いので、私もサウザンポート奪取は見送るべきかと……」
ジャック、即行で意見を翻すなよ。
こっちが吟味する時間を寄越せ。
第一、ルシーラはかなり小さい港だし、かと言ってルシーラ王国にサウザンポートを管理することが出来るだけの実力もない、
「……逆にサウザンポートの港をルシーラに貸し出して共存するのはダメか?」
「……良い手かもしれませんね」
「交渉次第ではありますが、十分な利益も見込めるかと思います」
あくまでサウザンポートの持ち主は俺達で、ルシーラ王国は使用料を払って利用すると言う形なら、双方にとって良い取引だと思う。
後は、
「交渉に関してはキリオンに任せる。
ジャックはサウザンポート奪取を視野に入れて動くように。
俺は辺境伯軍と共に北からサザーラント軍を圧迫する」
「「了解しました」」
「……それじゃあ、私は失礼して」
大まかな方針を決定した俺達の横を抜けて帰ろうとするロティだが、
「待った。
ロティ、あそこには何がある。
本当にただの大型倉庫だけか?」
逃がさない。
ロティを捕まえて聞き出しに掛かるが、
「……本当よ」
その情報は正しいのか。
ならば、
「聞き方を変えよう。
大型倉庫の中には何がある?」
「……」
「……トルシェに相談するか」
「待って! 待って! 待って!」
沈黙する4女の口を割るために、切り札の次女に相談を匂わせたら、焦って制止する。
「……倉庫の1つは、私のプライベートボックスだったんすよ!
中には古代王国期の高性能な複写機や製本機が残っているはずなんっす!
トージェン姉にバレたら接収され……」
「……ほう。
良いことを聞いた」
「げ!
こっちも敵だったっす!」
この世界で、本の大量生産は版画刷りと手作業での製本が基本だ。
それを解決出来る機械が残っているなら、辺境伯家で使っても良いし、ゼファート領にも欲しいが、
「なあ、ロティ。
トルシェには黙っていてやるから、複製品の開発に協力して欲しいかな? って思うのは勝手だろうか?」
「! ? ……! …………。
……分かったっす。
それで、手を打つっす……」
「そうか。
ありがとう」
大分葛藤したようだが、諦めて快諾してくれた妹に満面の笑顔でお礼を言う。
……サウザンポートを接収したら、ロティが趣味で書いていた恥ずかしい本の類いを捜索、回収するように指示しておこう。
そんな事を内心で考えながら、
「さて、強行軍ではあるが俺はラーセンへ向かうわ」
「「……はい」」
「あ、自分も行くっす!
テイファ姉にちょっと用事があるんすよ!」
次の目的地に移動することを伝えると、ロティが同行すると申し出るので了承する。
……本当に忙しい話だ。
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