第306話 ファーラシア王国の混乱
辺境伯家の家宰シュールからグリフォスの衝突を聞いたレンターは慌てて、宰相及び実務卿達を呼び出し協議を重ねることになった。
「難しい問題です。
国として考えるならすぐに辺境伯軍に援軍を送るべきですが……」
国内の貴族へ配慮したい内務卿は消極的な辺境伯派。
対して、
「陛下の即位に最も力を貸してくださったのは、マーキル王国。
その恩を仇で返すのも……。
出兵は少し遅らせませんか?」
外交的な利益を考える外務卿が消極的にマーキル王国の肩を持つ。
職務を考えれば当然の意見だろうが、
「いや、即位の騒動時はマーキル王国へとしっかり金銭を支払っているし、それとこれは別だろう。
今回重要なのは仕掛けたのがマーキル王国側だと言うこと。
三国同盟を根本から覆す大問題です!
ファーラシア王国軍単独での反撃を!」
むしろ、積極的介入を求める軍務卿。
ファーラシア王国は攻撃しても反撃してこないヘタレだと思われれば、仕事がより大変になるので積極的攻勢を主張する。
「攻められたのはマウントホーク卿の領地!
軍権を持つマウントホーク卿に断りもなく、介入など出来ないだろう。
それよりも調停のために使者を出すのが先だ」
最もらしい建前で、王国軍出兵に反発する。
予算を握る宰相として王国軍による進撃は許可を出さない。
王国軍が攻撃しても、マーキル王国から賠償金が支払われる先はマウントホーク辺境伯家であり、そこから謝礼と言う名目で王国へ金が支払われるが、その金銭は微々たるもの。
とても軍を動かす予算はだせない。
故に穏便な対応を求める宰相だが、
「それこそおかしいのではございませんか?
マウントホーク卿の領地が攻撃されたにも関わらず、いきなり調停の使者では、ファーラシア王国が辺境伯殿の権勢を削ごうと裏で動いたかのようにも見えかねません。
領地貴族の不安を煽るような真似はお控えいただきたい」
「諸国に対しても毅然とした対応を見せねば、引き抜き工作等を誘発しかねませんぞ?」
時期はともかく、軍を動かさないのはあり得ないと2人の実務卿が反対する。
領地貴族をなだめる必要が発生する内務卿。
他国が絡めば対応が甘くなると思い、亡命の振り等で利益を得ようとする貴族の監視を強化する必要の出てくる外務卿からみれば当然だ。
実務卿達の立場からすれば、国は少し恐がられるくらいの立ち位置が望ましいのだ。
「そもそも軍権があるから全てを任せるなら、マウントホーク辺境伯家が国に属する利益がない。
ある程度の国軍を派遣して、ファーラシア王国が協力する姿勢をみせなくては。
それとも、辺境伯家からの拠出金を断わるのか?
ましてや我々が手助けしないせいで、グリフォスへの対応に追われて、水晶街道の運営に支障をきたすなら、国中の貴族から王宮が恨まれるかもしれないのですよ?」
軍務卿も宰相のいきなり調停の案は反対であり、その理由として、国の在り方を提示する。
貴族達はいざと言う時に、国軍を借りたいから拠出金と言う形で軍事費用を出しているのだ。
金だけ取っておいて、有事に何もしないは通らない。
「……冗談だ。
しかし、何時を目安に動くのだ?
そもそもどうやって時間を稼ぐ」
旗色の悪さに冗談だったと誤魔化す宰相。
だが、難しい問題であるのも事実で、戦況が膠着すればするほど、出兵費用が嵩む。
しかし、主導権が辺境伯家にあるので、金が勿体ないと言って勝手に戦端を開くことも出来ない。
予算に限りがある以上、出兵と同時に開戦決着くらいの迅速な流れを望むのは自然な考えである。
だが、時間を稼ぐのも難しい。
本来なら、今頃グリフォスへ向けて、第一陣を送っていなければおかしいのだ。
「
あくまで今のは例え話ですよ?
わざと遅らせようとはしておりません」
下手な言質を取られないように、本音を例え話だと誤魔化す辺りは、外国と騙し合う狸らしい。
「しかし、いい加減に辺境伯に動いて欲しいのだがな?
既に半月以上も音信不通とはどういうことだ?」
「今の状況で、自身が出張れば家宰であるシュール殿の影響が弱まるからでしょうな。
本格的にぶつかってからなら、軍部対応ですからシュール殿の影響力には関わりませんが、現段階ではシュール殿の責任を問う声も上がりましょう」
マーキル王国出身のクセに何をしていたと持っていかれては、家宰の影響力が落ちて自身の負担が増えると考えているのだろうと推測する内務卿。
何処かのバカ領主は、自分で掘った墓穴に嵌まって迷子中だと誰も考えない。
「……現状を維持して時間を稼ぐしかないか」
八方手詰まりの現状を再確認して、レンターが呟けば、他の者達から異論が出ることもない。
ユーリスが出てきてくれないと、対応が進まないのは宰相及び3実務卿の共通認識でもあるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます