第304話 アムズとケイムアッテン
結局、昼食会での内容が、そのまま承認された出来レースの会議から数日。
忙しなく動き回る貴族達に紛れて、アムズ公爵邸を訪ねたケイムアッテン侯爵。
今回の騒動に置ける被害者同士として、私室へ彼を招き入れたアムズ公爵は上物のワインを用意する。
「実に困ったことになったな……」
「……はい。
まさか衰退した王国の舵取り役を担うことになるとは……」
折角の旨いワインが台無しになるような空気。
次の王になるアムズ公爵と大池の義父として、アムズ公爵政権での宰相になるケイムアッテン侯爵。
2人は数日の後に、グリフォスへ向けて出立することになっていた。
「……正直に話そう。
何処までが卿の仕込みだ?」
「気付かれておりましたか。
私の願いは、ユーリス・マウントホークの暗殺にありました。
とある事情にて世話になっている人物が、彼を警戒しておりましたので、憂いを断とうと企んだのです」
「それで伯爵達を唆したのかね?」
「それもあります。
放逐した子供達の仇など誰も考えていなかったでしょうし、彼らはマウントホークから金をむしりたかっただけです。
グリフォスを実効支配していれば、その返却費用として高額の金銭を得られたはず。
自分達の子供がグリフォスで死んだからその名聞も立つと考えた」
「卿が誘導しただけであろう?
そこで交渉に出てこざるを得ないマウントホーク卿を暗殺か?」
普通なら王命中の殉職なので、王宮へ抗議するべきだが、金のない王宮から取れる金額はごく僅か。
それくらいなら辺境伯家を相手にしては?
と誘導したわけだ。
「その通りです。
レッグ家出身のシュール殿では、責任が取れない案件ですので。
後は、ファーラシアの大貴族を事故死させた責任でリドル陛下を卸して……」
「私が王位を継ぐ予定だった」
それが成り立てばどれほど良かったかと考えるアムズ公爵だが、リドルを王位から追いやっても賠償金がなくなるわけではないことを失念している。
結局、王国史上最悪の君主として、名を馳せたことだろう。
「はい」
「それで、まだ辺境伯殿の命を狙っているのかね?」
「とんでもない!
現状でそんなことをすれば、どれほどの被害が出るやら」
もちろん、ケイムアッテン侯爵自身にである。
「それを聞いて安心したよ。
それで先ほどの口振りでは、他にも仕込みがありそうだが、今後に響かないだろうな?」
「ええ。
『密命を帯びた騎士達に、マウントホークは獣人との関係を強化しようとしている。
常々、獣人を滅ぼしたいと口にしている陛下の御心はどうなのだろうな?』
と少々毒を撒いただけの話です」
「ああ。……あれか。
あれはわざとだよ。
今だって我が領土経由で、獣人勢力北部の人狼族とは取引しているんだぞ?
滅ぼしたいと訳がないだろう?」
「え?」
王城に巣食う妖怪貴族のようなケイムアッテンですら知り得ぬ新情報であった。
「……知らなかったのか?
卿の情報網であれば、知っているものと思っていたが、王都界隈にも出回っている木細工は我が領の特産ではない。
人狼族より買い付けて、売りに出しているだけだ」
アムズ領産の繊細な細工は、王都では高く取引され、ケイムアッテン家にも幾つか存在する。
「まさかあれが獣人勢力の物とは……」
「卿もまだまだ甘いな。
陛下はわざと獣人を攻め滅ぼしたいと口にして、自分達は彼らに屈する気がないと、国内の貴族へアピールしているだけだ。
当たり前だろ?
文化が違えば、変わり種の特産物が入ってくるんだぞ?
自分から台無しにする愚か者が何処にいる」
……本気だったら言うわけないだろ?
と呆れた表情のアムズ公爵に、真っ青な顔になるケイムアッテン侯爵。
テームズ子爵経由とは言え、敬愛する主に間違った報告をしていたのだから、そのショックは相当のものであろう。
「……まあ、卿が誑かさずとも同じような事態になった可能性は否定できん。
……そう落ち込むな」
マーキル王国の現状を落ち込んでいると思っているアムズ公爵が追い討ちを掛ける。
見下していたマーキル王家やアムズ公爵家に、実は踊らされていた事実に、更に落ち込むケイムアッテン侯爵であった。
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