第301話 迷子の竜姉妹
テイファと共同でやらかして、ダンジョン化した領域に捕らえられること数日。……数週?
外の世界で戦争が起きようとしているなんて欠片も思っていない俺は、ダンジョン生活を満喫していた。
……うん。嘘だ。
既に拠点化している可憐出没エリアの病院で、妹と一緒に途方に暮れていたと言うのが正解。
「結局、何処に行けば出れるんだ!」
「知らん!」
俺の愚痴に律儀に合いの手を入れてくれるテイファへ視線を向ける。
「ユーリスの方がこの世界には詳しいんだろう?
ヒントになりそうな情報は知らんのか?」
「俺は没入型ゲーマーではないからな。
ゲームの背景には興味がなかったんだよな……」
「ストーリーを気にせずにゲームをするのか?」
不思議そうな顔をするが、ゲームの楽しみ方はそれぞれだと思う。
もっとも普通は双六にストーリー性を見出だしたりしないように、自分が欲しいものに近いウリを持つゲームを選ぶものだが。
「人それぞれだよ。
競争するのが楽しい奴もいれば、攻略に熱中する奴もいる。
まあ、ストーリーを売りにするこのゲームでは、俺のような者は少数派だろうが……。
あ、前に言った第二章覚えているか?」
「工場を目指すって奴か?」
「そう。
実は第二章を始めるには、この街で『情報通なオタク』『元新聞記者の女性』または『見習いアンドロメイド設計者』の誰かを仲間にしないといけない。
それまでは幕劇と言う状況が維持されるので、頑張ってヒトキャラを集めるわけだが、"攻略本は2周目で見る派"の俺は情報がなくて途方に暮れていた」
「お前、何でこのゲームやってたの?」
呆れる妹の視線は無視して、先に進めることにする。
「そんな俺を助けてくれたのがハンドルネーム"ヌリカベ"を名乗るプレイヤーだ。
対人コンテンツとかは第三章以降だが、ダイレクトメール機能と各プレイヤーの進歩情報を知る機能だけは初期から開放されていてな。
何時の間にか、俺は"第一章の主"と言う不本意な渾名が付いていたらしい。
大半の連中は、俺を隠しダンジョンを探る解析勢だと思って放置していたらしいが、ヌリカベ君はそんな俺にダイレクトメールをくれたんだ。
『大丈夫ですか?』とな」
「私でもそう思うわ」
「まあ身内ならな。
本人もゲームをあまりやらないタイプらしくて、俺も困っているんじゃないかと聞いてくれたんだ。
ヌリカベ君から情報を貰った俺は、やっと第二章へ進めた」
「一見良い話のようだが、場違いなゲームで遊んでいたバカが助けられたと言う間抜けな話ではないか?
そもそもそれが今の状況とどう繋がる?」
俺の良い思い出を一刀両断してくる無慈悲な妹様である。
「うっさい。
第二章の方が敵が強いんだから、ダンジョンコアはそっち方面にあるはず。
ならば出入り口は逆だと思わんか?」
「当然だな。
お前そんなことも想定していなかったのか?」
「いや、俺は当然想定していたぞ?
テイファが想定していないかもって心配になってだな?」
「お前は私をどう思っているんだ?」
「脳筋、お前こそ俺を……」
「脳筋」
……なるほど、酷い状況である。
互いを脳筋と思っていたのか。
「うむ」
「お互い理解が深まってよかったな」
理解が深まった妹と見つめ合い微笑み合って、
「「あたたたっ!!」」
一瞬後、互いの頬をつねり合う不毛な争いになったのだった。
数分の我慢比べの後。
「可愛い姉に体重を掛けた全力でつねってくるかね?」
「お前こそ、今の握力で私の物理抵抗を抜ける訳がない。
特性を使っただろ?」
ミフィアの背丈分高さが足りず、大いにダメージを喰らった俺が頬を擦りながら文句を言えば、逆に特性を使ったと言う批判を受ける。
「……。
とにかく、工場とは逆方向へ向かうと言うので、問題ないな?」
「……まあいいだろう。
それで? どっちを目指せば良い?」
露骨に話題を逸らすが、テイファなら乗ってくれると思っていたよ。
「確か工場が西だから東方面で良いはず……」
「どっちが東だ?」
「…………さあ?」
「そんなことだと思った……」
お手上げポーズの俺に突っ込む気さえ起きなくなったようである。
「しょうがないだろう!
太陽は出てないし、昼と夜の区別もないんだから!
章の切り替えは画面変更だったし……。
あ!」
開き直ろうとした俺の視界に館内案内が移る。
「これ!
右手側に東病棟ってあるから、この病院は南向きに建っているぞ!」
「なるほど!
でかした!」
こうして、俺達はやっと脱出に向けた第一歩を踏み出そうと……。
「そういえば、例のヌリカベ君情報だが、この病院って実は探索出来るんだわ。
確か東棟の前階段から2階に上がって、あそこの吹き抜けを通って、西棟に入る。
西棟の手前の階段を上って4階の奥にある階段を降ると……」
「……降ると?」
「西警備員待機室に通じていて、特殊なアイテムが手に入るらしい」
「特殊なアイテム?」
微妙そうな顔のテイファに構わずに続ける。
「ストーカーの顔面に当てると、スタミナと言うステージ挑戦権が回復する銃」
「……」
「……いや、そんな白い目で見るなよ」
「まあ、確かにそのゲーム挑戦権とやらがどういう意味を持つかは気になるな。
……取りに行くか」
こちらを白けた表情で見てから、直ぐに気を取り直したテイファ。
まあ俺達はダンジョンを自由に歩けるわけだし、無用の長物のはず。
その矛盾をダンジョンがどのように解決したかは気になるな。
「待て!
俺も行く!」
さっさと歩き出すテイファを慌てて追いかけるのだった。
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