第298話 親子の再会と謀略と
王都の一角、とある貴族家で帰宅した息子とその母が抱き合って、再会を喜んでいた。
「今回は本当に世話になった。
そちらの主にもよろしく言っておいてくれ」
「はい。
主もご子息の無事を喜ばれることでしょう。
しかし、これで全てが丸く収まるわけではございません」
妻と息子の様子を後目に、当主足る伯爵は息子を王城から手引きしてくれた女性に礼を言う。
しかし、女性からはこれで終わりでないとの忠告がなされるのだった。
「無論だ。
我ら高位貴族を害した獣人も、それを操る彼の悪逆辺境伯にも鉄槌を下してやる!」
「お願いいたします。
我が主は今回の件で表に出るわけにはいきません。
故に、閣下こそが我が国を思う愛国者として、お立ちいただかなくてはなりませんので……」
「ああ。
我々、愛国者こそが国を守り育てていくものだと、お伝え願えるかな?」
「もちろんでございます。
主もこの国に真に必要なのは、国益を尊ぶ正しき貴族であると認識しておりますれば……」
女性の言葉に、一次的に汚名を着ようとも、その後は更なる権勢を約束されるのだと確信を得たノイッシュバーグ伯爵は満足げに頷いた。
「無事にノイッシュバーグ伯爵子息を伯爵邸にお届けいたしました」
ノイッシュバーグ伯爵邸を後にした女性は、主の元に報告を告げる。
「そうか。ご苦労。
それで、ノイッシュバーグ卿からは何と?」
「は、感謝の言葉と共に、将来の保証を願われました」
女性の言葉で、ノイッシュバーグ家が完全に王家を見限ることに決めたと知って、唇の端を上げる男。
この男自身、これほど上手くいくとは思っていなかったのだが、
「うむ。
それでは予定通りに進めようとするか。
……念のため兵を集めておけ。
場合によっては力づくと言う可能性もある」
「かしこまりました」
王家の血を引きながら、決して届かないはずの玉座を手に入れられる可能性に魅せられたとある公爵は、暗い表情で笑い続けた。
「……そう。
それじゃあ、本当に可哀想なルガートの仇が取れるのね?」
「はい。
これも全て奥様の功績でございます!」
マキナー伯爵家の別荘で軟禁中の当主夫人パンネッタは、とある公爵家に仕える者を名乗る女から報告を受けた自分の小飼の侍女を自室に招き入れて、安堵の表情を浮かべる。
「良い気味ね!
私から全てを奪った気になっているからこういうことになるのよ!」
「奥様、少し声を抑えてください。
この屋敷にはマキナー伯爵の監視もございますので……」
屋敷を守る兵は、パンネッタ夫人の警護を表向きとしているが、不審行動が多い夫人を監視する業務も受けていると見るべきだった。
マキナー伯爵家では、目前の侍女のようにルガートやパンネッタに同情的な者と、彼らを敵視する者が混在しているのだ。
「あら。
……それにしてもあんな狂言が通用するなんて」
「奥様には色濃く王家の血が流れております。
その奥様が王都で拐われたと言う話になれば、王家としても捨て置けません。
謹慎中の騎士にかまけている暇はないでしょう」
高齢出産になるが、まだ子供が産める可能性のある王家の女性が拐かされれば、偽者を王族に仕立てることも不可能ではなくなるし、そうなれば王権を揺さぶりかねない。
表向き、軽度の失態で謹慎中と言う形のノイッシュバーグ伯爵子息よりもよほど大事になるのは当然だった。
しかし、本件が明るみに出ればマキナー伯爵以下一族郎党の処刑もあり得る大事だが、ルガートを失ったパンネッタ夫人にその程度の判断力は残っておらず、目前の侍女と"善意の協力者"を名乗る公爵家のもたらす復讐と言う言葉に抗う事は出来なかった。
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