第239話 4姫竜会議

 端末の1つであるネミアを介して、姉の生まれ変わりと対話したトルシェこと『死糸』のトージェンは、西大陸中に散らばる妹達に、大至急集まるように指示を出す。


「上手くことが運んだのね?」


 まず最初に末妹である『万式』のリースリッテがやって来た。

 セフィアを呼び戻すのに暗躍していた彼女は、天帝宮のすぐ南にある海岸線の静養地にて召集が掛かるのを待っていたのだから、来るのも早いのは当然だろう。


「怪しい動きをしているようだったが、リッテも絡んでいたのか?」


 それに僅差で遅れたのが、3女『貫志かんし』のテイファ。

 西大陸の西端から空間を無理矢理繋いでやって来たらしい。


「遅くなったっす!」


 最後に、4女の『彩歌さいか』のロテッシオが到着して、4姫竜きりゅうと称される真竜が集う。


「今日はよく集まってくれた。

 どうしても相談したことがあったのでね」

「大姉様の復活でしょ?」


 トージェンの言葉を奪って議題を口にするリースリッテに、一瞬だけ眉を潜めるものの否定しない姉の反応に3女と4女が驚く。


「……信じられん。

 リースリッテの話では空間裂に呑み込まれて、世界の狭間に落ちたのではなかったか?」

「そうっすよ!

 いくらあの姉でも世界の狭間に落ちて無事なはずが……」


 懐疑的な2人の意見に深く頷くトージェン。

 彼女とて現物を見なければ信じなかった話だ。

 自分達が強力な種族として、この世界に君臨出来るのは、魔力と言うエネルギーを大量に持ち、それを行使出来るからだ。

 その取っ掛かりとなる魔力が役に立たない世界の狭間では、最上位の竜もそこらを這う毛虫と大差ない。

 ……はずなのだが。


「……だから生まれ変わりと言っただろう。

 さすがに肉体の死は免れなかったらしいけど……」


 それでも生き残り、異世界へ辿り着いた。

 純粋に運が良い。で片付けることではないとトージェンは考えるが、それは現状でどうでもいい話。

 今の問題点は肉体を失い能力の大半を喪失したとは言え、現時点でも自分達に匹敵する能力を持ち、根本的な魂の大きさが変わらないが為にそのまま放置すれば長い年月を経て元の位階まで登り詰めるだろうことだった。


「それでだ。

 我々の対応をどうするか決めたい。

 今の姉上は人として生きてきた土台がある分、昔より性格がまともになっているのでな。

 今の状況を維持したいと考えるが……」


 トージェンが本題に入るが、


「……実際に会ってみないとなんとも言えんな」

「同じくっす!

 人として数十年生きた程度であの姉がまともになっているとは思えんっすよ!」

「テイファとロテッシオは反対か……」


 姉の所業を知る2人の意見に溜め息を吐くが、


「実物に会ってからだと言っている。

 あの姉がどんな感じになったか興味もあるしな」

「そうっすね。

 ちょっと行って見てきましょう!」


 2人は即断をしないだけだと答える。


「うむ。

 東の大陸のファーラシア王国で守護竜ゼファートを名乗っている。

 実際に会ってくると良い」

「プフ!

 よりによってファーラシアっすか!

 妙な縁があったものっすね!」


 トージェンが今の所在を答えれば、堪らず笑い出すロテッシオ。

 セフィアが古代文明を滅ぼす原因となった雑誌と同じ名前の王国を守っていることが面白かったらしい。


「……問題なさそうな気もするな。

 あの姉が元の性格そのままだったら、今頃ファーラシアは国名を変えているだろう?」


 テイファが頷きながらしみじみと言うと、ロテッシオが相槌を打ちながらも、


「けど会ってみるのは重要っすよね!」


 と返す。


「当然だ。

 こんな絶好のネタを見逃す手はない」

「……悪趣味な」


 からかう気満々の姉2人に呆れるリースリッテがボソリと呟くが肝心の姉達は気にも留めない。

 その様子を気にしたのは、会を開いた次女、


「リースリッテは会いに行かなくても良いのか?」

「もちろん行くわよ。

 ただ、今がどんな性格でも大姉様は大姉様なのよ?

 どうこう出来る相手じゃないし、仮に大姉様を倒しても、その内復活するんだからこの会議自体が不毛よ」


 久し振りの姉妹の集合に末妹が、何も言わない理由を理解した姉達は、遅まきながら彼女の意見の正しさを理解する。


「……そうだった。姉上だものな。

 私は今の姉上なら安全だから現状維持のために護衛兼相談役として姉妹の誰かを置こうかと思ったが、必要ないかもしれないな」


 今のセフィアが安心だからといって、輪廻が巡った時に大丈夫な保証もない。

 故に現状維持に労力を割くべきと考えていたトージェンだったが、そもそも必要ないのではないか?

 と思えた。しかし、


「それなら私が残るわ!

 大姉様をこっちへ呼び戻した功績は私にあるのだから……」


 リースリッテが即座に反応する。

 姉を呼び戻すために暗躍して妹として当然の権利だと。


「聞き捨てならんな!」


 それを聞き咎めるのは、テイファ。

 姉がいなくなって訪れた平穏を壊されたのだから当然。

 ……と思いきや、


「リッテの実力では護衛に事欠く可能性が高い。

 ここはトージェンか私の出番だ」


 世界の危機を華麗にスルーして姉の近辺に侍る適性を問う。

 それに反発するのは、


「テイファ姉!

 今、わざと私を外したっすね!

 守勢なら私の方が優秀っすよ!」


 天帝宮を守るトージェンが除外されれば、必然的に自分に回ってくると言う策はすぐ下の妹が許さなかった。


「結局、皆姉上の所に行きたいんじゃない……」


 妹達のやり取りに疲れた溜め息を漏らすトージェン。

 しかし、昔の姉が姉妹のマスコットだったのに対して、今は……。


「あらゆる意味で逆だし、妹達は素直に受け入れることが出来るのかしら……」


 ひっそりと呟く危惧の言葉は姉妹の誰にも届かない。

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