第235話 黒歴史 2
「お姉様!」
今日も変わらずに天帝宮の玉座に座って、季節の挨拶に来る異種族の使者の言葉を適当に聞き流していると、珍しい乱入者が現れた。
私の妹達の中では下から2番目、4女のロッティが訪ねてきたのだ。
これが普段から補佐をしている次女のトルシェや5女のリッテなら不思議ではないけど、いつもは自室に引きこもって、
「どうしたの?
来客中なのだけれど?」
「いえ、私どもはこれにて失礼させていただきます。
本日はご尊顔を拝謁賜りましたことを感謝いたします」
妹とは言え、異種族の使者達の前で好き勝手させるわけにはいかないと嗜めたが、向こうも見た目が小娘の相手に這いつくばる状況から抜け出せると喜んで退室を願い出てきた。
「そう?
悪いわね?」
正直な話、卑屈におべんちゃらを並べる異種族の使者達の話は楽しくないので、帰ると言うなら引き留めないけど……。
「……それで?
何があったの?」
「あ! これ! これを見てよ!」
「……あなたでも週刊誌を読むのね?
人族の情報をわざわざ集めるのなんてトルシェやリッテ位だと思っていたわ」
彼女が差し出したのは、ラインデル王国の週刊誌だった。
刊名は『ファーラシア』。
「真実の神ファーラシアから取ったのかしら?」
「それは良いから! 折り曲げてあるところ!」
居もしない神を崇めるなんてバカな生き物だと、呆れる私をロッティが急かす。
そんなに慌てなくても、トルシェが何も言わないなら大した情報じゃないでしょうに……。
!!!
「にゃ! にゃにゃにゃ!」
そのページを見た私は、顔が暑くなるほどに血が集まっている感じを受ける。
何で! と言いたいのに羞恥で言葉が出てこない!
そこには、
『天の女王の可愛い一面』
と言う見出しと共にルートを抱えて眠る私の寝顔が!
「これはどういうこと!
誰よ! 私の部屋を覗いた不届き者は!」
「そんないの……」
「ティーね!
私の結界を突破できるのなんてあの娘くらいだわ!
大至急、呼んできなさい!」
「いや、ティー姉でもそんな……」
「早く!」
口ごもるロッティに3女のテイファを呼んでくるように命じながら、今後の対応を考える。
こんな者が各異種族の代表に見られるなんて絶対に嫌。
平伏している頭の下でこれを思い出して、ニヤニヤしてたりしたら、その頭を粉砕してしまいそうだし……。
「皆、集まって!」
天帝宮にいる全てのエアリアルを呼び、……トルシェとリッテを呼んでくるように頼む。
あの2人は人族に知り合いがいるはずだから、その筋を利用して圧力を掛けるべきだしね。
「この『ファーラシア』を出してる雑誌社に圧力を掛けて、発刊を停止させなさい!
後、発行済み分は天帝宮で回収して、焚書しなさい!」
一足先にやって来たトルシェとリッテに、開口一番で命令を下す。
「「……」」
それを聞いていた妹達は、しばらく2人で顔を見合わせた。
普段喧々囂々やりあってるこの2人にしては珍しいけど、それが私の命令に対してなのは嫌。
「……寝言は寝てから言ってください」
「何で!!」
渋々と言う具合にトルシェが呆れた顔で罵声を飛ばしてくる。
即座に反応すれば、
「その記事なら私達の方で許可したものです。
今更止められるはずもないでしょう?」
「何で!!」
まさかの検閲済みだった。
「そもそもその記事の取材は、私が許可をしたんです」
「だから何でよ!!」
しかも元凶がトルシェだった。
更にリッテも、
「ちなみに結界はテイファ姉さんに破壊して貰いましたし、感知用のトラップは私が無力化しましたわ」
「ちょっと!」
まさかの妹達の大半が裏切者だった。
「しかし、随分早く姉上の耳に入りましたね?
もっと先になると思いましたが?」
「ロッティが教えてくれたのよ!」
「……なるほど」
「ロッティ姉さんですからね」
2人で呆れながら頷く。
この反応はまさか!
「大方、姉上の狼狽える姿が見たくて、早々にバラしたんでしょうね。
困った娘だわ……」
……大半じゃなくて全員だった。
「……皆が苛める」
豪奢な玉座の上で折り曲げた膝の上に顔を埋めて嘆く。
「ちょっと! 姉上!
そういう姿は私室でやってください!」
いじけた私をトルシェが更に叱り、溜め息を付く。
私の方が溜め息付きたいよ……。
「……今や、天の女王セフィアと言うのは、恐怖の代名詞なのです。
それを払拭しなければ、後々災いの種になるでしょ?
だから姉上の可愛いらしいプライベートの姿を周囲にみせようと画策したのです。
分かりましたか?」
「言ってくれれば
何でいきなりプライベートを晒すのよ……」
顔も上げずに涙声で呟く。
私にだってプライベートな空間で、可愛いお嫁さんになる夢見る権利くらいあっても良いじゃない……。
「「……」」
「だからやりすぎだと言っただろ?」
膝を抱えて泣いてる私に、次女と5女が困惑している奇妙な謁見の間に、低めの女声が響く。
ロッティに連れられてテイファが来たらしい。
しかし、私は隣のロッティへ恨みがましい視線を向ける。
「アハハ。バレちゃった?」
頭を掻きながら愛想笑いをするロッティへゆっくり頷くと、
「ごめんね。
あの時は最善だと思ったんだけど、知らないままにするのも可哀想だと思って……」
「…………」
「だからね……」
「…………」
「……ごめんなさい。
普段、気難しそうな顔のお姉様が慌てるところが見たかったんです」
「……私も謝ろう。
トージェンが暴走しているなら、停めるのは私の仕事だった」
圧力に屈したロッティに続いて、テイファも頭を下げる。
「確かに少しやりすぎでした。
申し訳ありません。姉上」
「もうちょっと大姉様の気持ちを考えるべきだったわ。ごめんなさい」
残りの妹達も謝罪するが、
「で?」
「「「「……え?」」」」
私の問い掛けに一斉に首を傾げる妹達だが、
「あなた達は私に謝って終わりかもしれないけど、私は今この時もプライベートな秘密が拡散中なのよ?
謝ったくらいで許すわけないでしょ!」
「しかし……」
「良いから!
この発行元を業務停止するようにラインデル王国に命じなさい!
後、これを持っていたら速やかに天帝宮へ送付!
隠し持っていた奴は鉱山で3年間の強制労働よ!」
「さっきより厳しくなってる?!」
「良いから! 天帝勅よ!」
驚いているトルシェを置いて、近くのメモ用紙に今言った内容を書いて、トルシェに渡す。
これで帝勅令状の発行が決まり、誰にも停めることは出来ない。
「……こうなってはしょうがないですけど、前代未聞ですよ?
一出版物に罰則付きの天帝勅なんて……。
第一……」
「さっさと動け!!」
渋るトルシェを怒鳴り付けて、動くことを命じる。
こうしている間にも、私の恥ずかしい秘密が拡散しているってのに!
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