第207話 アンデッド退治
シモンの歓待を受けた俺は翌日早朝には、ボーク家を出立して、アンデッドが潜んでいるはずの旧バイエル領インバルの街へやって来た。
歓迎のために夜会を準備しようとしているシモンの話を聞いて、慌てて飛び出したのだ。
数ヵ月に及ぶ内乱で食料的にも金銭的にも困窮気味のボーク家にそんな無理をさせたなどと言う評判は避けたかったし、領軍を率いるジャックが困り果てていたのもあった。
インバルの街ではグリンダ平野での調印式からずっと従えていた供廻りの騎兵を街の治安回復に尽力するように指示して、俺は周辺の森の探索を始める。
相手が眷族化能力持ちのアンデッドであると分かっている状況で、下手に軍を率いる真似は被害の増加に繋がるので、1人での探索を行うわけだが…。
…思った以上に難儀しそうだった。
周囲の森は一歩中に足を踏み入れただけで分かるほど、嫌な気配が充満している。
「『鬼の祠』の深層域のような空気。
何故、この状況で王国に報告がないんだ?」
不思議な状況に首を傾げつつ周囲を探索する。
アンデッドが近くにいると言う嫌な気配は生有る者を不安にさせる。
普段森へ入らない一般人はともかく、森で生計を立てる猟師達が気付かないはずがないのだが?
森へ入ってから4時間。
俺は報告がない理由を理解した。
「これだけ動き回っても1体も現れない。
どうやら、ここのアンデッドは生者を避けているらしい」
本来のアンデッドは自分を苦しみから解放するために命有る者を襲い、その生命力を奪おうとするらしい。
まあ、アンデッドと意志疎通したわけでもないので、学者達の推論ではあるが、実際、『鬼の祠』深層部では戦うと言うより群がられると言う状況だっただけに、俺もその推論を支持している。
「ダンジョン産とそれ以外。
上位種と下位種の差と言う具合に色々な点で違いがあるから正解とも限らんがな」
しかし、主の亡霊騎士はともかく、眷族まで人を襲うために出てこないとなれば、こちらを避けていると考えるのが必然的だろう。
騎士系のアンデッドだし、統率力が高いと言うのもあり得る。
「何処かで待ち伏せていないだろうな?」
………。
そう呟いて、その可能性の高さに愕然とした。
相手のアンデッドが戦術的な思考をするなら…。
脅威度の低い一般人には潜伏してやり過ごすが、上位の冒険者相手なら倒してしまおうと考えても不思議ではない。
…これは人族の冒険者ではどれ程上位でも圧殺されかねない危険な依頼だ。
「ひとまず、一旦引き返すか」
竜化能力が使える状況だから俺にとってはやや危険度は低いがそれでも安全マージンは重要だろうと判断を下す。
…まあ、気付くのが遅すぎたんだが。
数メートル森を引き返した所で30近い数の黒い鎧の群れが現れた。
これは後をつけられていたと言うことだろうな。
「…しょうがない」
騎士の集団に斬り掛かるように突撃をする。
当初の推測より数が少ない上に、森の濃い部分での開戦となった故の判断だ。
竜化して攻撃すれば、木々が邪魔で逃亡するアンデッドを逃がしかねないと言う懸念とアンデッドの能力から想定した数に比べて桁が1つ少ないからの行動だ。
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名前 なし 性別 なし
種族 亡霊騎士の眷族
レベル 37
能力
生命力 0/0
魔力 0/0
腕力 180
知力 16
体力 0
志力 0
脚力 150
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
数の多さから念のため、ステータスを読めば全て同じ数値の個体ばかり。
しかも変なステータス値。
まるでこれは…。
「本体となる亡霊騎士の一部と言うことか?」
…ヤバイな。
推測通りなら完璧な連携をみせるぞ?
「…敵じゃないけど」
数体まとめて吹き飛ばす剣の暴力にただの人形が勝てるわけもなく。
10分も掛からずに殲滅したのだった。
…本体の亡霊騎士がいないので、殲滅と言う言葉も語弊があるかもしれないが。
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