第196話 本隊との合流とエルフ

 行政館が炎で包まれた姿は思った以上に、ダンベーイの住人の心を折ったらしい。

 住人の中には、義勇軍に媚を売る者や従軍参加を希望する者が増え始める。

 数日前の塩対応が嘘のように愛想が良くなった。

 まあ、内面までは知らないが、それを上手くまとめるのがニューゲート巫爵の手腕次第。

 そもそも我々が欲しいのは、ペルシャンの港であり、この街自体はどうでも良いと言うのが本音である。

 ダンベーイはペルシャンからゼイムへ至る道の中間くらいにあるからなくなると不便だが、新たに街の建設をすれば良く、元々ヨクヴォ侯爵として領地を運営していた巫爵にはそれだけの人材がいるわけだしな。

 そのニューゲート巫爵が軍を率いてダンベーイを訪れて、俺と交代する。

 俺は100名ほどの騎兵を率いて、グリンダ平野の本隊と同流することになった。

 なお、俺のせいで発生した街道の屍の山はニューゲート軍が片付けてくれたらしいが、ニューゲート巫爵に散々嫌みを言われて、更に行政館が外観以外は使えない状況。更にはダンベーイ城が半壊である。


「さすが真竜様は豪快ですな」


 と呆れられた。


 …まあそれなりに色々あったが、その本隊と合流した俺は、早速キリオンに紹介されてジェシカ・イグダードと面会し、正式に彼女を巫爵に任命したのだが、その任命式で事件が起きる。

 彼女の種族がエルフから『竜僕』と言う種族にチェンジしたのだ。

 秘密に出来れば良かったが、仮にも自分達のトップが竜に仕える儀式であるので皆が参列。

 他のエルフ達の前でやったので、鑑定スキル持ちが多いエルフは大騒ぎとなった。

 しかも、他のエルフ達も種族が『エルフ(命竜眷属)』と変わり、全員にスキル『癒し魔術の才』が生えた。

 どうしてこうなったと訳が分からない俺に対して、長命なエルフの中にはそれを知る者がいた。

 彼に曰く、


「別の氏族の話ですが東の地で水竜様に仕えていたエルフがいたはずです。

 しかし、水竜様は竜の里へ招致があり、エルフ達は残されることになったとか。

 その水竜様は長年の忠義に酬いるために、エルフに土地を与えその地の支配を許可されたと聞きます」

「それで?」

「彼らのまとめ役はその際に『竜僕』となり、配下のエルフ達は『エルフ(水竜眷属)』となったと聞きます」

「つまり、『竜僕』はまとめ役のエルフに与えられる地位的な立場か。

 そのエルフ達はどうなった?」

「…そこまでは、しかしこれが竜様から授かった祝福であるのは間違いありません。

 悪いことにはならなかったと思います」


 エルフ達はそう言うが、豊姫達は別の種族に生まれ変わったと言っても良いほど変化している。

 エルフへの追跡調査が必要だろう。

 しかし、イグダードから東の方と言うとゼイム、ビジーム、アガームくらいのはずだし…。

 ラロルだと北って印象だよな?

 何処かに隠れ住んでいるのなら良いが、例えば祝福の力が強すぎて、子供が生まれないとかだと問題だぞ?

 漫画とかで呪いだと思っていたら、強すぎる祝福に体が耐えられないっとかあるしな。


「後はスキル『癒し魔術の才』でしょうか。

 少なくとも私は聞いたことがありません。回復系統は『治癒魔術』のはずでは?」


 エルフの将来を考えているとジェシカが疑問を呈する。

 そう言えば、マナの『癒し魔術の才』と中野の『治癒魔術の才』は何が違うかと俺も思っていたんだが、そもそもスキルについて詳しい統計調査なんてされていない世界では、参考文献がなかったんだよな。


「父さんは何か知っていますか?」


 …は?


「そうですね…。

 元々、我々が使う魔術は真竜様方の固有魔法を『万式』のリースリッテ様が異種族でも使えるように調整したものです。

 しかし、リースリッテ様より高位の真竜様の固有魔法は調整出来ずに、1から組んだと言う話です。

 特に有名なのは『死糸』のトージェン様が使う『偽魂魔法』でしょうか?」


 1番驚いたのは、エルフの溜め込んでいた古い知識もさることながら、先ほどから答えていた男性エルフがジェシカの父と言うこと。


「ちょっと待て、色々気になるが最初に確認する。

 お前はつまり、イグダードの先王なのか?」

「? …ああ。

 お伝えせずに申し訳ありません。

 我々の氏族は霊樹の声を聞いた者が言添えと呼ばれる指導者となります。

 もっとも大抵は族長家に生まれるのですが…。

 王を名乗れるのは言添えだけで、それ以外は配偶者や兄弟、子供でさえ王族は名乗れません」

「…そうか」


 今はエルフのやり方にどうこう言う気はない。

 …先を促す。


「それでですが、『偽魂魔法』を再編出来なかったリースリッテ様は『操霊魔術』と言うアンデッドの『死霊能力』に近い魔術を開発したと聞きます。

 しかし、トージェン様の配下の竜人族は『孝霊魔術』と言うものを使えるとか…」


 字面からの印象だが、『偽魂魔法』はAI搭載アンドロイドで、『操霊魔術』は旧型のロボット。

 『孝霊魔術』は学習機能付きロボットって所か。


「それで今回の場合は?」

「癒しの魔術と言うのがどう言うものかは不明ですが、治癒魔術より高度なものである可能性が高いかと…」

「そうか。

 調査はお前に任せても良いか?」


 ついでにジェシカの父親に調査を命じる。

 『解析』スキルだと、癒し魔術習得に補正とか治癒魔術習得に補正で、肝心の魔術説明が出来なかったしな。


「お任せください!」

「頼むぞ。

 さて、これからだが…」

「向こうの出方を待つべきでしょうね。

 ひとまず交渉が始まった場合の停戦ラインを定めるべきかと…」


 これまで空気だったキリオンの言葉に頷いて、ジェシカとキリオンと共に天幕へ移動する。

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