第192話 椅子に座る男
概算で、騎兵2000、歩兵6500、輜重隊500と言うのがダンベーイ解放部隊の軍編成である。
彼らは3日掛かるダンベーイまでの距離を、2日で進軍した。
天幕を張る時間を省いて毛布を頭から被って夜を明かすと言うような強行軍によって、時間を短縮して来たのだが、アガーラにはそれに対する勝算もあった。
この地方ではこの時期はめったに雨が降らないことや野性動物等が少ないと言った知識、…地の利があったこと。
そして、数の少ないダンベーイ占拠軍は篭城以外の選択肢がないだろうことが挙げられるが、その公算はすぐに崩れるのだった。
アガーラが騎兵と共にダンベーイの西に到達するとダンベーイの街門が開き、1人の男が出てくる。
男が街門の前で椅子に座るのを尻目に街門は再び固く閉ざされ、男は取り残される形になった。
「何だ?
あれは?」
「…確認して参ります」
アガーラの問いを聞いた兵の1人が確認に向かい、門前の男と軽くやり取りを交わして帰ってくる。
「それで?」
「…男はこの街の防衛責任者で、帝国軍がある程度の距離まで近付いたら倒すと言っています」
「正気か?」
「…おそらく」
「念のため鑑定するように命じろ」
「はい」
真竜の存在を疑いつつも、優秀な冒険者が兵士100人に匹敵する実力を持つこともあると理解しているアガーラは、部下に鑑定を命じた。
その結果は、
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名前 ユーリス・マウントホーク? 性別 男?
種族 人間?
レベル 21?
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と言うものだった。
向こうの能力値が高過ぎて、鑑定ではあやふやな情報しか分からないと口を揃えるスキル所持者達だったが、知りたい情報である真竜本人? 本竜? かどうかが分かれば問題ないアガーラは、全軍の集結を持って攻城戦開始を指示する予定を立てる。
彼女は外交官のガイウスからゼファートとユーリス・マウントホークが同等程度の実力と話していたことを聞いているので、ゼファートを偽竜だろうと評価したと言うのもある。
まさかレベル20程度の人間と同程度の真竜がいるとは思わず、むしろ、ゼファートそのものがサザーラント帝国へ圧力を掛けるための幻惑かもしれないと考えた彼女はレベルと実際の強さが一致しない例外があると言う事実を失念するのだった。
それでも将としては優秀な彼女は、念のため周辺に伏兵がいないかを確認させる。
篭城の可能性が高い戦いとは言え、伏兵による奇襲もあり得ない話ではない。
その間も椅子に座る男は欠伸をしながら、暇そうに待っている。
その様子に周囲の兵が明らかに苛ついている。
元々、強行軍で精神的に疲労している兵達に目前の男の余裕は腹立たしい。
このままでは士気が下がりかねないと感じたアガーラは騎兵50に突撃を命じて、目前の男を倒すように命じる。
罠の可能性もあるが、それでもこれ以上のストレスを溜め込むよりましと言う判断だった。
何より、このまま攻めずに待ち続けるのは結果として、篭城を成功させているのと同じであり、それは個人の智謀で目の前の男に負けたことになる。
それはサザーラント皇女として、自身を許せない失態だった。
そして、突撃の指示を聞いた兵士達は自分達のストレス原因を排除出来ると大喜びとなり、誰が行くかを争い始める。
くじ引きで当選した突撃兵はヒャッハー状態となって馬に跨がり、誰が真っ先に辿り着くかを争い出す。
この時点で突撃する兵士も後ろで囃し立てる者もそしてアガーラも自分達の失態に気付かない。
欠伸の様子が見えるほどの距離では騎馬の最大の特徴である突進力を生かせるだけの加速が出来ない。
ましてや、男のすぐ後ろに壁がある状態では、心理的なブレーキが掛かって満足に馬を走らせれるわけもない。
本来なら大きく迂回して外壁沿いに加速して、そのまま突撃するのが正しい戦法だが、1人で佇む男を前に油断し、短絡的になっている彼らにその判断を下せるだけの冷静さは既になく、結果、ユーリスに辿り着くこともなく全滅する運命を辿る。
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