第173話 突撃?

 王家からアガーム王国の提案を受けると言う返事と共に届いた儀礼剣を携えて4日後。

 俺は、ラガート伯爵家の領都?村? とにかく本拠地にしている集落の少し手前まで来ていた。


 案の定と言うか、ネッケから南に延びる街道の先ラガート伯爵領へ入る少し手前で森の中から炊事の物と思われる煙を見掛けた。

 北から来ると左手側が山、右手側が森になる立地は奇襲向きの地形ではある。

 そこで数人の自称冒険者に会って、昼を奢ってもらい何処に行くのかと聞かれたがバイエル領のアンデッド退治に挑戦すると言ったら、あっさりと興味を失った。

 北から来たのでマウントホークの密偵を疑い、念のために確認してきたのだろう。

 向こうも自分達が隠れている情報が広がるのを避けたいだろうから、深く突っ込むのを避けたのだろうが、これが南から北への移動であれば拘束の可能性もあったかもしれないなと考察しながら放置する。

 ネッケの手前まで王国軍が来ているらしいので、北からの食料補給は出来ないだろうし、ラガートを占拠すれば勝手に干上がる軍だ。

 むしろラガート包囲班に情報が漏れるのが辛い。

 街道脇の岩に腰掛けて、干し肉を齧りながらレンターからの手紙を再確認する。


『…出来るだけ竜化を使って暴れてください』


 やはり竜化を使ってほしいとある。

 何度見ても竜化しないで! ではないのだ。

 レンターの奴は何を企んでいるのだろうか。


「まあ、実際竜化を使った方が楽ではある。

 敵の軍と戦う用意はあっても、魔物と戦う用意はないだろうしな……」


 そもそも戦う準備すらしていないだろう。

 連中の目的はラガート伯爵家の本拠地が包囲されている状況を演出するための物だ。

 ラガートからの手紙を嘘にしないための出動に過ぎない。


「さて」


 腹ごしらえも終わったし、竜化を行い初手から必殺技を使うことにする。

 空高く舞い上がり、翼を畳んで自然落下。

 時折、向きを調整しながら敵陣へと突撃?する。

 新必殺技メテオストライク(物理)である。

 30メートル級の巨大物体が数百メートル上空から降ってくるのだ。

 その威力は恐ろしいの一言だろう。


 実際、敵陣のやや前方よりに全力で墜落した俺の影響は凄まじかった。

 地面が捲れて瓦礫が方円状に降り注ぎ、敵の陣幕とラガートの本拠地の木柵を消し飛ばす。

 辺り一面から火の手が上がり、阿鼻叫喚へと化していく。

 ……ラガートが敵だからやれたんだけど、これ絶対にバーン・ラガートの目利きを見極める役に立たない奴だわ。

 南部閥にもラガート家にも大打撃でとても継戦能力が残っているとも思えんし、全面降伏すんじゃねえ?

 ……それは不味いな。

 降伏されるとそれを自分の配下に置くことになるわけで…。

 腹面背従の輩を大量に抱えることになりかねない。

 ……ここは。


「我が名はゼファート!

 人間どもの祭りに偉大なる我が自ら参加してやったぞ!

 ありがたく思うがよい!

 ハッーハハハハ!」


 と言って直ぐに西に向かって飛び立つ。

 俺は通りすがりの他人?他竜?ですよ。

 マウントホークとは関係ない別の竜ですよ!

 と言う言い訳だな。

 ひどい砂埃だし、そこらじゅうで火事に家屋倒壊と俺を気にする余裕もないはずなので、この宣言だけで俺とゼファートを結び付けることは不可能になるはずだ。

 ……少なくとも表面上は。


 ゼファートはなんとなく悪役っぽい名前として咄嗟に付けたが中々良いんでない? ……と思う。

 さて、時間切れになる前に急いでマーマ湖に向かう。

 そこからドラグネアに一辺寄ってからケトーネに戻れば、アリバイ工作も完璧だ。

 2つ目の山脈の上空眼下にマーマ湖を見付けると、そこに向かって不時着体勢に入った俺はそんな都合の良い未来を想像していた。


 なお、遠いドラグネアでも軽い揺れを感じるほどの地震だったらしく、天変地異の前触れだと思った住人が右往左往して大騒ぎだったとシュールに報告された。

 俺のせいであることは絶対に秘密にしようと考えながら久し振りのまともな食事に舌鼓を打つのだった。

 ……勇者中野の懇願で、俺の代わりにユーリカとレナがナカノ子爵領に向かったと言う嫌な報告も受けたが、どちらにしろ俺にとって優先して対応すべきは南部との抗争である。

 シュールに対応を一任した。

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