第172話 申し出
「きたな」
「はい」
封蝋にラガート家の紋章がなされている手紙が届いた。
中身には案の定、救援を要請する物。
「さて、それじゃあ行くとするわ」
「今からですか?!」
ベストリアは驚くが、1人行動ならその方が良い。
俺1人なら昼夜も関係ないし、食料はマジックバッグに入れてある。
……何よりも書類仕事に飽きた。
初期の土台造りから手伝っていた砦建設も終盤に近付くと出番はなく、1日毎に書類仕事の比率が増していき、今や飯時を除いて執務室に拘束中である。
王国から何人も文官が出向してきているんだ。
ドラグネアで方針を決めて、シュールが最終判断と言う形で対応するように指示を出す。
「証明となる儀礼剣が届いておりませんよ?」
「……要らんだろう。
マジックバッグだけでも十分証明になる」
身分証明となる紋章入りの儀礼剣が届いていないと否定される。
これは王国から造られて来るのを待っている状況だ。
元々、俺は水晶街道設営後は東部で各魔物領域の解放をする予定であったので急ぎでなかった上に、初の辺境伯と言うことで原型となるデザインがなかったので、時間がかかっている。
王都内の工房からデザインを公募している状況だったのだ。
ここで採用されれば、毎年辺境伯家からデザインの使用料が支払われるし、名工としての地位も確立出来るのでどこも必死だが、それ故に遅れに遅れている。
ひとまず侯爵位の剣をアレンジした物にマウントホークの紋章を入れて、仮の儀礼剣を用意することになったらしいが、それも未だに届いていないのだった。
「他はともかく、ラガート伯爵家でマジックバッグを見せても証明にならないでしょう?」
「あ……」
「大人しく待っていてください」
ベストリアの反論に納得した俺は渋々書類の山との格闘に戻ったのだが、
「ん?」
「どうしました?」
「これを見ろ」
手紙の中にアガーム王国の国旗で封印されている物を見付ける。
「……」
「まあ開けてみるか……」
そこにはアガーム8世の名でジング・ガーター辺境伯がマウントホーク領への進軍を画策している旨が書かれていた。
それに対してアガーム王国はガーター軍の足止めを行う予定であるとも……。
「本当でしょうか?
自国の貴族を陥れるような……」
「まあ、『小鬼森林』解放に向けて何度も派兵しているから、一応既に戦時下であると言う言い分もたつんだよな……」
あり得ないと首をかしげるベストリアだが、この間メイブーブの街長がやって来たことを考えれば、十分あり得る事態だと思う。
「ガーター辺境伯家の狙いは、旧『狼王の平原』エリアへ進出することだ。
目標をマウントホーク辺境伯家に変更するのは利に叶っている。
俺達は南部閥との争い中だからな……」
「それを知らせるのは……」
「もちろん俺達に『小鬼森林』を解放してほしいんだよ。
ガーター家がドラグネア近郊に進出したって、赤字にしかならない。
むしろ『小鬼森林』が解放されて街道が通れば、ガーター領を丸々差し出しても利益の方が大きいくらいに発展するだろうな」
「……」
「騎士として納得出来ないだろうが土地が減った方が利益になることはたまにあるものだ。
……アガーム王国も本気だな。
ガーター家敗北後は、エイトにギンダーの領有権を差し出すそうだ。
ギンダーって言うと近隣一の銀鉱を有する街だろう?」
「すごい利益になりそうですね!」
大興奮のベストリアには悪いが、
「うんにゃ。
街道の経費でトントンか気持ち黒字くらいじゃないか?」
「え?」
「『小鬼森林』解放で逃げ出したゴブリン達への対応に、エイトに新しく国境警備隊の屯所がいるだろう?
辺境伯軍や王国軍は予算が増えて万々歳だろうが、辺境伯家はその分負担額が増える。
交易量が増える内政部とアガーム王国貴族との交流が増える外交部も純粋な増益になるだろうが、辺境伯家は初年度赤字の可能性も高いな」
しかも王宮から後にしてほしいと言われている『小鬼森林』解放が早まるので再調整もしないといけない。
面倒事の塊みたいな話だが、これは拗らせない方が良い話だ。
追加でファーラシア王家に手紙を書くか……。
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