第170話 レンターの受難 1
水晶街道が機能し始めて、ゼイム王国からやって来た有名な絵師に肖像画を描いて貰えることになったレンター。
この手の肖像画が歴代の王としてのステータスになる。
高名な絵師であればあるほど、王の権力の強さを示すので、意外と重要性が高いものだ。
外国から呼び寄せられるだけでも現在のファーラシア王国と現王レンターの力の強さが分かる。
そんな力の原動力と言うか、大半であるところのユーリス・マウントホークからの手紙はあまり歓迎できない。
「先生は呼吸するトラブルメーカーだからな……」
手紙を受け取ってそんな愚痴を溢していたレンターではあるが、その内容を見て至急の会議を開く必要性を感じたのだった。
「ビッツ殿、すみませんが緊急事態ですのでモデルは……」
「構いませんよ。
今日の残りは下塗りだけですので……」
「それでは失礼して」
絵師に断りを要れて退出するレンターを見送った絵師は、
「レンター陛下が言う『先生』と言うのはあのマウントホーク辺境伯のことでしょうし、我が主にも手紙を出しましょうかね?」
仙人のような容貌の奥で眼を光らせつつ、そんなことを呟く絵師であった。
レンターが宰相執務室を目指していると宰相に3実務卿が連れだってやって来た。
どうやら同じ手紙を受け取ったらしい。
彼らと合流して会議室に雪崩れ込むことになった。
「さて、軍務卿の弁明を聞こうか?」
全員が着席すると同時に宰相が話を振る。
今回の遠因としてミント・へーベルの助命を挙げたのだが、
「宰相殿の不信も理解出来ますがな?
本件はへーベル元伯爵による戦功の偽申請です。
被害者であるマウントホーク卿が問題なしと判断した以上は、これが最大限の刑罰でした。
むしろ、へーベル元伯爵の独断行動を伯爵家の行動として解釈。
直接戦場に出ていない嫡男以下男子に責任を取らせたのです」
「……うーむ」
軍務卿の反論に宰相としても唸るしかなくなる。
軍務卿の対応は状況的には最適解である。
むしろ、嫡男以下の男子を処断したことで被害を最小限にしたとも言える。
「では先生の自業自得ってことかな?
へーベルの行動をしっかり処断していたら、遺恨も残さなかったはずだろう?」
「陛下、辺境伯殿の行動も正しいのですぞ?
彼がへーベル元伯爵の行動に被害を申請して、彼と決闘になれば、その債権としてへーベル伯爵領を受領することになったでしょう。
受け取る領地は南部の歴史ある貴族領です。
領民達の反発も少なくないでしょうから、彼の地の統治に労力が集中したと思われます」
呆れ気味の口調で返すレンターに内務卿が反論する。
南部の小領に気を取られて、マーマ湖周辺の開発が遅れることの方が彼には辛いのだ。
「じゃあ、これは王国の監督不行き届きと言うことでお詫びをしよう」
「「「はっ!」」」
水晶街道の開発を進めたいレンターと3実務卿はお詫びと言う名目で、辺境伯家の負担を減らすための人員を用意する方針を固めるが、それに待ったをかける人物がいる。
「お待ちください。
財源はどうなさるおつもりで?」
予算執行権を有する宰相だ。
追加の支援に掛かる費用を王宮の予算から出せば何処かの予算を削るか、国の資産を流用する必要が発生する。
その責任者が宰相なのだから当然の質問だった。
「王国の監督不行き届きもあるけど、最大の原因はラガート伯爵の詐欺行為だ。
彼の資産をもって補填とする」
「……たまわりました。
国家予算から金貨100枚、伯爵家から金貨400枚として、出せない分はあの家の借金でよろしいでしょうか?」
「妥当かな?」
王国からも謝罪金が出ているし、伯爵家としてはギリギリ出せる額だろうとも考えたレンターが宰相の臨時予算編成に許可を出したのだが、
「お待ちください。
その程度では辺境伯家の負担を減らすには不十分です!」
今度は内務卿から待ったが掛かる。
金貨500枚の予算ではあるが450枚くらいは治安維持を中心とした軍部へ回される予算となるだろう。
内政部への追加予算が50枚程度では、辺境伯家への援助は大して出来ず、かといって通常の予算を持ち出すわけにもいかないのだ。
執行額の大半を持っていく軍部と内乱で関係のない外交部とは違い、内政部としては見過ごせない。
「……そうだね。
ジンバル侯爵、それぞれ50枚追加してそれを内政部に」
「しかし陛下」
「勅命だよ?」
「……たまわりました」
「感謝いたします!」
レンターの勅命により渋々増額を認めた宰相。
それに内務卿が感謝して会議は一旦幕を閉じたが、数日後にこれが無駄になることを彼らの誰が予想しただろうか?
レンター達の受難はこれからだ!
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