第156話 交易開始
ミエール子爵がビジームへ移って、すぐに第一団となる通商船団がイマーマ港に到着する。
大半は湖で漁師をしている連中で、特に団長役を担う男は海賊みたいな髭面巨漢だった。
元々マーマ湖の南側沿岸で漁師達の網元をしていたと言うので海賊と言うのも間違いではない。
そんな連中が持ってきたのは塩や胡椒に唐辛子のようなスパイスが中心で、ウチの嫁が大喜びをしたのだった。
彼ら第一団と入れ換えで第二団として、商人達が木材を牽引してやって来る。
油分の多い木材で造船に向くそれらは、外務卿の伝手でやってきた船大工達を大いに喜ばせた。
「本国に送りたい」
と言い出す彼らには申し訳ないが、マーマ湖で使用する大型船舶の準備が優先だ。
その第二団と一緒にやって来たのが、ビジームで為政者をしているビジーム一族の分家当主ケンタ・ビジーム。
それにくっついて、ジューナス公爵家の次男ロイド・ジューナスがやって来る。
一応、俺の相談役としてこの平原解放前にレンターから話があった男だが、
「いやぁ。遅くなって申し訳ないっす。
親父には頻繁にせっつかれていたんすよ?
けど、ゼイム王国からファーラシア南部の街道は危なくて通れんでしょ?
…そこにケンタ叔父のドラグネア訪問を聞いて便乗させて貰ったんす。
以後、よろしくお願いしまっす!」
どうやら、紛争の影響で他国に足止めを食らっていたらしい。
ジューナス公爵家とビジーム一族の間には血縁関係があるので、その伝手で世話になりながらファーラシアへ戻れる機会を待っていたと…。
「ああ。
しかしウチで意見番するのは、先に王都まで行ってレンター陛下とジューナス公爵閣下に挨拶をしてきてからだがな?」
「…マジっすか」
嫌そうな顔で問い掛けてくるロイドにしっかり頷く。
コイツ、有耶無耶になるまで帰らない気でいたな?
「当たり前だろ?
何でゼイム王国で絵画講師なんてやってたんだ?」
「絵が好きだったんすよ。
それで絵を学ぶなら、芸術都市フェネンテが1番だって、そこに留学していたんすけど。
フェネンテは芸術が出来ない奴には厳しい街でした。
頭は良いのに絵心がないから下級官僚のままの奴とかざらに居て…。
芸術なんて習わないと上手くならないのに酷いでしょ?」
コイツの言い分、芸術家達の既得権益になっていると言うのも分かるが、フェネンテの官僚からしたら芸術分野に理解の無い為政者が立つことで、特色である芸術を蔑ろにされることを危惧しているのだろう。
ただでさえ、ゼイム王国はファーラシアと南の強国に挟まれた国だ。
平和ボケしている位でないと危険なんだろう。
「自分はそんなフェネンテを変えるために格安で絵画教室を開いていたんす。
それがやっと軌道に乗ったと思ったら……」
「南部の争いか」
「うっす。
俺みたいなドラ息子でも捕まれば、厄介なことになるんで…」
しょんぼりするロイドにその苦労を思うが、芸術方面に散財している予算を軍備とかに回したら、他国の圧迫を受ける。
絶対に大きなお世話だ。
「そうか。
…まあ1度顔を出してくるように」
「そんな!
ここは一筆書いてくれたりする場面じゃねえすか?」
手紙で終わらせるつもりだったな。
「政情不安な状況で子が心配にならない親もいまい。
俺も一人の父親として、ジューナス卿の肩を持つ」
ガックリとするロイド。
ジューナス卿には俺の懸念も含めた手紙を出そう。
しかし、帰れなかった不可抗力の方は叱られればテンションも下がるだろうし、飴を用意することにした。
「基本的にお前さんはウチの相談役だからな。
呼んですぐに登城出来るなら、市井で絵画教室を開くのも良いぞ?
それ用のサロンを用意しよう」
最終的には旧貴族領に芸術都市の1つでも設営出来ればありがたい。
「マジっすか!
是非お願いします!
ついでに絵用の鉱物粉末や膠も…」
「それは自分で用意しろ」
そこまで行くと厚かましい。
この世界で芸術用の資材を用意するのがどれくらい掛かることか。
「…ですよね。
知り合いの商人に声を掛けるっす」
「伝手があるなら最初からそっちを利用しろ」
色の付いた鉱物を条件に合わせた状態に加工して卸すのだ、それなりの専売特許があり、それに干渉されるのを嫌うだろう。
それにそういう専門の販売業者とは仲良くしておきたい。
その手の専売業者は他の特殊な業種との繋がりも強いだろう。
「うっす。
すいませんっす」
「さてと。
明日にでも護送用の兵を用意してやるから、公爵達によろしくな」
「…うっす」
嫌そうな顔のロイドにしっかりと命じておく。
公爵に会ってくると言う命令を受けさせるわけだ。
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