第126話 平原を征く
ドワーフ義勇兵が陣地に付き、俺の魔力を与えた武器が、行き届くまで数日。
そこから武器の調子を確かめたり、軽く連携を確認したりで更に数日。
戦争とは兎に角準備時間が掛かるものだ。
これでも大臣達が動いてくれたお陰で短縮出来た方で、彼らは俺がオドース侯爵領に向かう前から準備していたと言うから、ファーラシア王国としては1ヶ月以上掛けての準備だ。
これで俺が失敗したら、その時間とコストが無駄になるわけで…。
他国の反応もよく分かると言うものだ。
…その結果が出るのが今日と言うわけだな。
狼達がねぐらとしている岩場に一直線に向かいながら、散発的に向かってくる狼を切り捨てていく。
冒険者としては回収したいが、夜までに狼王を撃破する必要性から捨て置く。
「…どうせ、王国軍が狩る分で大暴落だ」
酸っぱいブドウの理論で自分の中の貧乏性を抑える。
実際、計5万人による包囲戦だ。
アガーム側の山地へ逃げ込んだり、討ち漏らす分を考慮しても、狼の毛皮は大暴落だろう。
……それにしても、魔物の領域には明らかに『攻略法』があるようだと思う。
この『狼王の平原』を解放しようとした回数はゆうに5回以上。
その全てに共通するのは大軍による攻勢では不可能と言う事実。
「これは何処の魔物の領域でも共通か。
『魔狐の森』だって、低レベル者が幻術に囚われれば容易く全滅する。
…むしろこの平原以上に相性が悪いな」
対してこの『狼王の平原』は犠牲を厭わないことと領域主に匹敵する実力者が用意出来れば国主導でも解放出来るだろう。
……間違いなく国が傾くが。
「ここは狼なのが厄介なんだよな。
広い平原なのに騎馬が使えず徒歩での行軍となるから、夜までに連中のねぐらまで襲撃出来ない。
夜になればヒットアンドウェイを繰り返す狼に削られて、軍が溶ける」
結局、馬以上のスピードを持つ魔獣を従えるか、徒歩で馬以上のスピードが出る規格外でないと厳しい。
「しかも!」
右脇の方から飛び出してきた牛よりでかい狼の首を跳ねる。
「時々やってくる上位種が厄介だ。
地の利もあるし、コイツクラスだと勇者1人では荷が重いだろうな」
俺にとってはでかい犬だが、一兵卒クラスだと即死確定。
勇者クラスでも1人では大苦戦だろう。
「上手く俺の与えた武器を使っているだろうな?
下手すると部隊壊滅で包囲網に穴が空くぞ?」
そうなれば俺の苦労が水の泡だ。
何故に竜化も使わずに平原を早足程度で進んでいるかと言えば、狼達を恐慌状態に陥れないためだ。
西から強力な存在が徐々に向かってくるのだから、じわじわと東に逃げると言う方針で動いてほしい。
連中も逃げる時間がなければ、破れかぶれで包囲網を突破しようとするかもしれない。
だから中途半端な進撃速度を維持しているのだ。
「これで夜になると大変だよな。
主に後方が…」
夜陰に紛れて方位突破は勘弁してほしい。
一応、豊姫達が包囲網の外で警戒しているが、元々潜伏が得意な狼系を相手にゲリラ戦とか数ヶ月がかりの対応は嫌だ。
とは言え、日が先程より西にじわじわと傾き始めている。
「…竜化してねぐら強襲と狼王の撃破となる可能性もあるな」
統制を失えば突破力も下がるはずだし、それも視野にいれる。
味方の損害も跳ね上がるだろうし、狼王を取り逃がしたら最悪だが。
「……どうやら、その心配は無用だったらしい」
視界の端に灰色の岩場が見える。
十中八九、狼達のねぐらだろう。
周囲に大型の狼上位種の気配も感じるし、確定で良いだろう。
「…まあ、罠でもあるのだろうがな!」
気配から半円形に散開しているのを感じるし、包囲殲滅をしてくる予定だろう。
その先に一際大きな気配。
…躊躇うことなく中央に突撃する。
「「「ガアァァ!!」」」
一斉に襲ってくるがそれよりも俺の剣が中央の1頭を切り伏せて突破する方が早い!
包囲陣の最大のメリットは躊躇した相手が減速する可能性が高いことであり、デメリットは壁が薄いこと。
…とは言え、豊姫クラスでもこれはヤバかっただろう。
躊躇がなくても敵を倒すのに時間を喰えば、そのまま全方向攻撃で敗北するしかない。
大型魔狼相手では絡め手メインの霊狐達では突撃力が足らないだろうな。とは言え、それは豊姫達の場合。
「邪魔するな!」
俺ならハウリング効果のある竜魔法で追撃の手を鈍らせることも可能だ。
そのまま狼に追われながら、岩場の上に陣取る大型狼の更に3倍はある化物に斬りかかる!
相手も爪で対抗してくるが、ステータスの差が右前肢ごと爪を切り裂くと言う結果を導き出す。
キュッとブレーキを掛けて、2回転の旋回斬り。
こっちへ飛び掛かってきた狼を上段で凪ぎ、下段2撃目が狼王の首を襲うが。
……避けた?!
のけ反るように首を引いて、致命傷を避ける。
狼王はそのまま浅い傷口から血を吹かせながらも逃亡を謀るが。
「逃がすか!」
近くの大型狼の死骸を投げ付けて逃走を遮り、刺突を試みるが、偃月刀の突きは脇腹を裂くに留まる。
だが、先程右前肢を失っている所に脇腹の斬撃で岩場を転げ落ちる狼王。
こちらも飛び降りざまの一撃を狙うが、転げて更に避けられる。
それどころか近くの狼が向かってくるのでその対処に追われる。
「しぶといな。
領域主ってのは皆こうなのか?」
波状攻撃でこちらの追撃を許さない狼達だが、狼王がガクッと腰砕けになると同時に動きが鈍った。
…やはり狼王に使役されているようだ。
他の狼は無視して、そのまま狼王に向かい、迎撃の爪を避けて睨み付けてくる奴の首を切り裂いた。
「……終わったか」
逃げ出す狼達は追わずに狼王の遺骸をマジックバッグへ収納して座り込む。
…疲れた。
と言う感想しか出てこない。
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