第119話 戦場の風景?
王都での用事も済んだので、…一部は先送りにしたが。
翌日には西部に向かい、街道沿いで1日野宿して、翌日の昼過ぎくらいにレッドサンド王国軍とファーラシア王国軍の対立する戦場に辿り着く。
ほぼ終戦しているが、完全に終わっていないので、あくまでここは最前線であり、戦場と言う扱いだ。
弛緩しきった空気で兵士から将校まで暇そうにしているが…。
…ここにいる限り、戦場に何日居たって武勲が付くはずだが?
近くの哨戒兵? と思われる槍を持った男にマウントホークの来訪を告げると、慌ただしく奥へ引っ込んで、すぐにウエイ伯爵を引っ張ってくるのだった。
ここは戦場だし、哨戒兵なら鎧くらい着ろよっと思ったが、ウエイ卿の姿を見るとしょうがないかっと言う気にさせられる。
「ウエイ卿、一応ここは戦場ですよ?」
「あ! これは失礼…」
俺の遠回しな指摘に自分の格好に気付いたらしく、軽く謝罪するが、兜やマントはともかく鎧を脱いでいるのは問題だろう。
「…まあ良いですけど、ジューナス公爵閣下もみえるのでしょう?
騎士として問題では?」
幾らドワーフ軍との戦いがないとはいえど、護衛対象となるジューナス卿がいるのだから伯爵であるウエイ卿は騎士として、常に正装しておく必要がある。
「面目ない」
「閣下が糾弾してきても口添えはしかねますので…」
「それは大丈夫だ」
? 何故自信満々なんだ?
現状、かなりの失態だぞ?
「ウエイ卿に問題がないなら問いませんが…。
ジューナス公爵はどちらに?」
「いやぁぁ、実務は自分がだね…」
「ダメですよ。
幾ら実際の交渉をウエイ伯が担当していようとも、この軍の中における序列はジューナス公爵閣下がトップです」
お飾りでも彼を除外する選択肢はあり得ない。
「…ああ、そうなんだがなぁ。
そうだ!
強行軍で疲れただろう!
明日に会うと言うのは……」
「それこそダメでしょう。
公爵閣下への挨拶より自分の休憩を優先したなんて噂が立てば大問題じゃないですか。
…そこの者。
ジューナス閣下の元へ案内しろ!」
妙に煮え切らないウエイ伯爵を見限って近くの兵士に命じる。
大方、弛んでいることがバレるのが嫌だったんだろう。
「はっ!」
さすがに俺の姿を知らない奴は王国軍にはいないらしい。
敬礼して、奥の天幕に案内されたのだが、
「ジューナス公爵閣下に申し上げます!
マウントホーク辺境伯閣下が参られました!」
「な、ちょっと待て!」
天幕前で兵士が呼び掛けるとバタバタと慌ただしい音が響く。
「……」
数分ほどの後に、
「……入って良いぞ」
と入幕許可を得る。
そこには、ジューナス公爵とうら若い女性が1人。
…このジジイ。戦場で何をやっていたんだよ。
「お久し振りです。ジューナス卿。
呼び出しに応じて推参いたしましたが、お忙しいようで…」
「いや、これはな…。
長い天幕生活で身体が痛んだのでマッサージを受けておったのだよ?」
「はあ…。
それでこれからの対応ですが?」
「うむ。
明日にでもドワーフ王に会えるように手配を整えようと思っているが、正直な話で彼らは自分達の傑作に竜の力を注いでもらうのが目的だ。
何処までの限度を設けるかあまり分からない」
それは困るな。
下手に舐められて数十とかの単位で竜気を注いでいたら、数ヵ月は掛かってしまう。
少しでも早く領地開発を進めたいのに…。
ドラゴン状態で圧力を掛けようかな。
「そうですか。
…一旦ここを離れて明日の昼頃に竜の姿で飛来します。
激怒した振りをしてドワーフ達に圧力を掛けますので、ドワーフの重鎮達を集めるのと兵士への通達を頼めますか?」
「なるほど。
それはありがたい。
向こうも強大なドラゴンの姿を見た後で無茶振りは出来ないだろうし」
「それでは一旦陣地を離れて、少し東の方で野宿しますので…」
「うむ」
「ハロルド卿。
あまり戦場では羽目を外さないことです。
…多くの兵士に見られる以上奥方に伝わる可能性も高いのでは?」
「う! …うむ。気を付けよう」
「それでは…」
釘を刺して天幕を後にする。
まあ、お飾り公爵家のお家騒動などどうとでもなるが、ウチに飛び火してもかなわない。
……俺だって1ヶ月ほど戦場にいたわけだし、これからもこういう機会があるはずだ。
その時に度々嫁に疑われては身が持たないのでな。
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