第81話 フォックステイル 2
「良い買い物だったな!
今頃あのギルド長は俺を手玉に取ったと喜んでるだろうな?!」
「「「「え?」」」」
物件を観た俺は歓喜につい大声を上げてしまった。
それを聞いた配下が驚くので、ネタばらしをすることにする。
「俺は貴族の駄目なボンボンの振りをしていた。
だからアイツは不良在庫をあたかも親切心で割り引いて売ってくれたように見えたわけだが…」
「この規模の店が不良物件ですか?」
「大通りに面しているし、悪くないのでは?」
「最悪さ。
いくら大通り沿いでも冒険者ギルドからも職人街からも遠い。
よほど奇抜な物や特徴的な物を売らないとやってけんだろうな!
だが大棚の店でそんな怪しい商売などやれば、触らぬ神に祟りなしとばかりに倦厭されて終わり」
「連中め!」
パンッと手を鳴らして、守頭の怒りを逸らす。
「怒るな。
普通の連中には最悪で、俺にとっては最高の立地だ。
やるのは大衆食堂メインで、店の一角で近くの村から買い付けた野菜を安く売る産直市場と『フォックステイル』がダンジョンで手にいれた品を売る掘出し物屋。ついでに冬華の痛み止めや各種薬を売る薬剤店も組み込もう」
「食堂自体は不満はないですのう。食は全ての基本ですし、しかしいきなりそんな色々やって大丈夫ですか?」
俺の立案に懸念を表明する賢寿に嫌そうな顔の娘夫婦。
俺の機嫌を心配しているのかもしれないがこう言う部下こそ、重宝するものだ。
「逆さ!
色々やるから客が来る!
ここで食堂をやっても来るのは冒険者だけだろう。
あんな不安定な職業の連中をメインターゲットにするのは危険大。
狙うなら家族連れだが、この立地では物珍しい食事を提供しても最初は売れるがリピーターが付かない。
だがここでは食事のついでに安い野菜が購入出来るとなれば?」
「家族で野菜を買いに来たついでに食事をしていく訳ですね?」
「普段家で食事をする家族も引き込める可能性がございますな!」
日本人なら分かるだろうが、やろうとしているのは高速道路のサービスエリアや道の駅のような店舗スタイルだ。
何処からも客が来ない立地なら、来るだけの付加価値を付ければ良い。
「店舗の総支配人兼食堂の料理長はウチの嫁がやるだろうから、産直市場はお前ら一家に任せるぞ?
この街へ追加で来たお前ら一家含む30名の内、ダンジョン探索パーティの方の『フォックステイル』5名と屋敷管理の5名を除く20名で上手く回せ」
「たまわりました。
守頭お主と配下は分散して村々から野菜を買い込んでくる買い出し班を」
「任されよう」
賢寿が頷いて守頭に指示をする。
「守頭、これを持っていけ」
その守頭にマジックバックを5つ貸し出す。
これで輸送コストが大幅に減るはずだ。
「有り難く」
恭しく受け取る守頭に頷いて返す。
「掘出し物屋は儂がやりましょう。こう言うのは胡散臭い爺が向いとりますからな。ヒョーヒョヒョヒョ!」
ノリノリでキャラ付け始めたぞ、この爺。
「失礼しました。
薬剤店の商品供給は冬華がやるとして売り子は弟子にやらせましょう。
2人は食堂のウェイトレスじゃ」
「そうだな。頼むぞ。
そうだ、俺の持っているアイテムもついでに掘出し物屋で売ってくれ」
そう言ってマジックバックから出したアイテムを一角に積んでいく。
「…これだけで十分怪しい店だな」
「さすがにこの辺のアイテムは不味いですぞ?」
指差したのは『死王の宝冠』。
「宝石を抱えた骸骨の意匠の宝冠。
これはリッチを生み出す邪悪なマジックアイテムですぞ?」
「ああ、そんなのあったな。
売るに売れなくてバックの中で塩漬けにしてた適当に奥の部屋に結界でも張って封印しておいてくれるか?」
「…一国が滅ぶかもしれないアイテムですぞ?
厳重に保管いたします」
嫌そうに店の奥へ運ぶ賢寿にヒラヒラと手を振って答える。
「さてここの店の名前は食事処と雑貨の店『フォックステイル』とするからそのつもりで」
「恐れながら、この店の所有者は主様でございます。
ここは竜か鷹を冠する名こそが相応しいのでは?」
「それに冒険者パーティも『フォックステイル』ですから、紛らわしいかと思います」
守頭夫婦の反論ももっともだが、
「分かっているさ。
けど、冒険者パーティと同じ名前でそのパーティがこの街有数の実力者となればアホなちょっかいは減るだろう?
それに竜は論外だし、鷹を冠すれば貴族になった時に不利益を被るかもしれない」
「どう言うことですか?」
「爵位を金で買ったとかの噂は避けたいのさ。
そう言うのが広まると領地経営で反感を買いやすくなる」
人と言うのは不思議なもので叙爵を受ける時に、これが武功由来であると表立った反発をしないのに、財力由来だと反感を買う。
…強い奴が命懸けで得た爵位と要領の良い奴が運良く手にいれた爵位で違うのは当たり前か。
「と言うわけでこの店は『フォックステイル』。
開店は1週間後でよろしく頼む」
「1週間後と言うと主様が旅立った後ですね」
「…ああ。
今日、レンターの生存を知らせて明日発表。
そこから冒険者の募集に1日。
俺を呼び出して出発前の顔合わせ。
その翌日に出立だししょうがないだろうな」
「もう少し遅らせては?」
「無理だな。
冒険者の中に暗殺者が紛れたら目も当てれん」
情報が出回ってから行動を開始するまでの時間短いほど安全が増すのは間違いない。
「ならば開店を早めます!
今日にでも買い出しに出掛ければ、数日で開店出来ます!」
「いや、そんな無茶をする必要ないから…」
「失礼します!
守牙(しゅが)、守爪(しゅそう)!
これより周辺の村へ行くぞ!」
「はい?」
「守頭様?」
「主の門出を祝うために一肌脱ぐ!
行くぞ!」
店を出て、若い狐を2頭連れて出ていった…。
「…いや、この店の掃除とか色々あるんだが」
「すみません! すみません! すみません!」
俺の呆れた声に必死で謝る秋夜。
気にするなっと制して、掃除の準備を始めるように指示する。
…一応、明後日には開けるように準備しようかな。
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