第73話 考えてみたら分かるよな

 ダンジョンから戻った俺を待ち受けていたのは焦燥したレンターだった。


「一体どうしたんだ?」

「姉は現在療養中で屋敷から出てこないそうです」

「療養?

 持病でもあるのか?」

「いえ、私が討たれたかもしれないと言う噂を聞いて気分を悪くしたそうで…」

「ああ。

 安全の為に自宅に篭ってるんだな?」

「そのようです。

 一応、レンターが来たと言伝てましたが信じてもらえるか分かりません」

「どうにかならないのか?

 2人だけの思い出の品を添えるとか?」

「難しいですよ。

 私が5歳の時にここに入学して、長期休暇に顔を合わせるくらいでしたので。

 個人での思い出なんて殆どありません」


 レンターの言葉に愕然とした。

 俺は一般人と王族の家族交流の差を考慮していなかったらしい。


「…どうやって弟であると証明するんだ?」

「大丈夫ですよ。姉は『鑑定』を持っていますので確認してもらえれば…」

「『偽装』スキルでないと言う証明は?」

「え?」

「『鑑定』は『偽装』スキルを使った偽装を見破れない。

 そこを疑われたらどうしょうもないだろう?」

「『偽装』なんてスキルがあるんですか?!

 聞いたことがありませんよ!」

「ある。

 実際に黒姫に普段使わせているからな」

「そんな!」


 真っ青な顔をするレンターの様子から『偽装』スキルが周知されていないスキルだと分かった。しかし、周知されていない=誰も知らないではない。

 ましてや他国に留学させる王女の護衛だ。

 優秀な人材で固めているだろうし、最悪は『偽装』を見破るスキル持ちはいないけど存在を知ってるパターンで、そうなると詰む。


「状況次第ではミネット王女は当てに出来ないかもしれん。

 そうなればファーラシアは最悪滅亡するかも…」

「ええ?!」

「レンターが次期国王として立ち上がり、ロランドを糾弾するのが良いのだが、それが出来ないとミネットを旗頭に据える必要が出る。

 そうなればこちらの軍は統制の効かない貴族軍の寄せ集めになり、元々そうなっているあちらの軍と乱戦状態となる可能性もある」

「そうなれば他国が介入してくるかもしれませんね…」

「それはないと思うぞ?

 下手に介入して味方と思い込んでいた連中に背後から襲われようものなら戦火はその国にも拡がりかねない。

 介入して来るとすれば、嫌戦感が民に蔓延してくる時期。

 …5年後くらいかな?」


 俺ならそうすると言えば、レンターは不満そうな顔で答える。


「よほど野心家で政治を省みない国王でもなければ攻めてこんよ。

 逆に攻めてこれば強引なまとめあげも不可能じゃない。

 誰もお前を本物かなんて気にしなくなるからな」


 戦時下で望まれるのは強い王であって正統な王ではない。

 ならば強い王が正統を名乗れば、その真偽は慮外してその王に靡くものだ。


「逆にロランドが正統な王を名乗るチャンスでもあるな。

 間違いなく王族だし、それが他国の侵略を阻み国をまとめれば誰も文句を言えなくなる。

 それだけの能力はないと思うがな」

「それは…」

「今はそれくらいの状況と言うだけの話だ。

 これからのことは王女に会ってから考えろ」

「はい」

「ウチの娘は無事に入学出来たのか?」

「はい。問題なく。

 彼女を特待生待遇で入学させたいと言う申し出もあったようです」

「ふーん。…それはパスだな。

 下手に貧しい平民と勘違いされて攻撃の的になっても困る。

 物語じゃないからな、虐められている平民の少女を心優しい王女様が助けて親交が生まれましたなんてない。

 それよりも裕福な謎の大貴族マウントホーク家の子女として振る舞わせる。

 少しでも信用の置ける味方の欲しい王女が品定めくらいはするだろう。

 そこがチャンスだ」

「なるほど…」

「問題は時間が掛かること。

 それまで王都の維持くらいは出来るだろうな?

 あの駄王子は…」

「それまでなのですか?」

「ああ、王女経由でレンター生存を知れば一部の貴族は暗躍を躊躇うはずだ。

 俺らは危険な旅になるがそれはしょうがない」


 国が本格的な内乱に陥ったら向こう数十年苦労する。

 ここで多少の危険を覚悟で動いた方がマシだ。


「危険ですか?

 北方の国々を内密に通れば大丈夫なのでは?」

「そうしたら振り出しに戻るんだ。

 王女に会ったら、ここからは遠くの国から移住してきた貴族マウントホーク家の護衛の元、各国の貴族や王族に顔を会わせながら堂々と進む」

「それは詐欺になるのでは?」

「自称貴族なんてありふれているんだ。

 それに見合う権勢を持っていれば誰にも否定できんよ」


 それで損する人間もいないのだし、本物以上の財力と軍事力を持つ偽物は本当に偽物だと言えるのかどうか。


「…使用人を雇ってより貴族っぽく振る舞うべきかもしれないな」

「…良いんでしょうか?」


 不安げなレンターが呟くが、異世界の民間人を力業で貴族にしてきた国の支配者の一族が言う言葉ではないと思いながら、今後の予定を考える。

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