とある一家の異世界転移

フォウ

第1話 深海魚コーナーにて

 初秋のとある金曜日。

 サラリーマン鷹山祐介と妻の優香は有給休暇を取って家族サービスとして、運動会の振り替えで休みとなった小学生3年生の娘、真奈美を連れて近場の水族館に遊びに来た。

 近隣ではかなりの大きさを誇る水族館だが、さすがに平日は人の数も気持ち少なく、のんびりと観賞とまではいかないまでも、水槽が見えないということはなかった。

 ただし、館内は非常に賑やかだった。

 沢山の中学生が訪れていたのだ。


「運が悪いな。

 中学生の遠足とかちあった」

「しょうがないわよ。

 それよりあなた、真奈美の手をしっかり握っていてよ?」

「分かってる。

 まな、絶対に手を離しちゃダメだからな?」

「うん!」

「嬉しそうだな」

「パパとのお出掛け久しぶりだもん!」

「そう言えば…。すまんかったな」

「良いよ。パパお仕事頑張ってるもんね」

「おう。ありがとな」


 和気あいあいと過ごしていた一家に転機が訪れたのは、深海魚コーナーへ差し掛かろうとした時だった。

 深海魚コーナーはその性質上暗めの照明になっているのだが。


「…妙に暗いな」

「そうね。深海魚コーナーだから暗めってのは分かるんだけど、歩くのにも困るのはおかしいわよね」

「う…ん……。

 パパ…、眠くなってきちゃった」

「急に?

 グッ、俺も…だ」

「私も。これおかしいわよ。ひきかえさ……」


 数分後。


「あれ? 杉田達見なかった?」

「見てないよ? どうしたの?」

「俺、トイレに行きたくなって、深海魚コーナーで杉田達に待っていてもらったんだけど。見当たらなくって」

「ええ! どうしよう。先生に言わないと…」

「だよな。ちょっと先生探してくる」


 深海魚コーナーの先にある淡水魚コーナーの入り口で少年達のこんな会話がなされていたのだった。

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