第83話

 鴉が『カーカー』と鳴きながら、井筒屋の上空に舞っていた。


『退けェ~ーー❗❗ 退いてくれェ……❗❗

 お里ォ~ーー~ーー……❗❗❗❗』

 源内は、井筒屋の奉公人たちの制止を振り切って、屋敷の中庭へ押し入った。



『ちょッ、源内センセェ…… 待って下さい❗❗』

 井筒屋の奉公人らも源内の剣幕に御手上げのようだ。



 広大な中庭の中の大樹の周辺には旧い井戸があり、井筒屋の旦那、与平ら数人が大樹を見上げ茫然と立ち尽くしていた。

 


 全員、顔面が蒼白だ。

 仮面のように表情が固まっていた。




『うゥ……』

 異様な光景に、一瞬、駆け込んだ源内も声を無くした。

 いったい何をそんなに驚いているのだ。




『源内❗❗ 落ち着けェ~ーー❗』

 背後から盟友 杉田玄白が追いかけてきた。そのあとから岡っ引きのヒデも続いた。



『あ、あそこです…… お里は❗❗❗』

 ヒデが大樹を指差した。十メートルほど上空だ。


『ぬゥ……❗❗』

 源内と玄白は唸って上空を見上げた。


『う……❗❗❗❗』

 彼らの視界に有り得ない光景が映った。



 大樹の上空十メートルの枝に、人が首をってるされていた。


『……』一瞬、源内は眩暈めまいを覚えた。



 首を吊っているのは、女だ。



 その顔に見覚えがあった。


『ま、まさか……』



 間違いなく、その女は、お里だ。



 



 ※。.:*:・'°☆

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