第73話 紅夜叉

「ひ、ひィィィィ~ーー~ーー❗❗❗❗」

 恐怖で息が止まりそうだ。


「お、お、鬼だァ~~ーー❗❗❗」

 賊は、全身 漆黒しっこくの衣裳をまとって、紅い夜叉の形相をしていた。

 いかつい顔をして、額の両端からおぞましい角が二つ伸びていた。



 いや、本物の夜叉であるはずはない。


 冷静に考えれば能で使う『くれない夜叉』の面をかぶっている事は容易たやすく見破れた。 



 だが、気が動転していた僕には正常な判断が、まったく出来ない。



「お、お、鬼だァ~~ーー❗❗❗❗」

 本当の鬼のように恐れ戦慄おののいた。

「うう~……」

 紅夜叉が近づいて来ると言うのに、僕は呻くだけで恐怖のあまり一歩も動く事が出来ない。


 咄嗟に逃げようとしたが、足がすくんで動かない。

 用を足したばかりだと言うのに、失禁してしまいそうだ。

 一気に全身から汗が滲んだ。


 黒装束の賊は、僕に気づくと煌々と目を光らせ、すぐさま襲い掛かって来た。


 全身からオーラのように殺気がみなぎっていた。


 手には大きな鎌のような武器を持っていた。まるで《死神》の持つみたいな大鎌だ。


 月光に反射し、妖しく不気味に刃先がきらめいた。



「ゴックン……」背筋が凍りつき戦慄が走った。



 あの禍々まがまがしい大鎌が一閃すれば、間違いなく僕の首は吹っ飛ぶだろう。




 今度こそ間違いなく死ぬ。



「うううゥ……」しかし情けない事に、まったく微動だに出来ない。



 紅夜叉は、足音も立てず大きな鎌を振り上げ襲い掛かって来た。


 すぐ目の前だ。

 全てがスローモーションのように映った。



「ひッひィィィィ~ーー~ーー❗❗❗❗」

 もうお仕舞いだ。



『死ねェ~ーー❗❗❗❗』

 一気に、紅夜叉は間合いを詰めた。

 間違いなく射程圏内だ。



「わァァ~~ーー~~ーー❗❗❗❗」


 

『源内ィィィ~ーー~ーー❗❗❗❗』

 紅夜叉は雄叫びをあげ、僕の首筋へ大きな鎌を振り下ろした。



「わァ~~ーー~ーー」

 死んだァ~~ーー❗❗❗❗





 せっかく源内に転生したのに、また僕は死んでしまうのだろうか。





 ※。.:*:・'°☆

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