第35話 美少女型セクシードール

 不意に蔦屋の旦那が声をひそめ、僕の耳元へささやきかけてきた。


『わかっているだろうが…… ここの所…、

 御上おかみうるさくてなァ~……

 このカラクリ人形の事は他言無用だ❗❗』

 キツく組んだ肩を掴まれた。


「ハ、ハイ…… もちろん解かってますよ」

 しっかりと僕も頷いた。


 当然のことだ。この時期、風紀を乱すとして、派手な浮世絵も取り締まられていた。


 間違いなく、こんな精巧なセクシーアンドロイドは【天下を揺るがす】御禁制の品だろう。


 これほど派手なピンクゴールドの髪をした美少女型のセクシードールが江戸界隈で見つかったら、ただでは済まない。




 その時、ふすまの向こう側から男性の声が響いた。


『旦那様…… そろそろお時間です……』

 九五郎の声だ。


「ン…、ああ、そうか……❓

 もう…、そんな時間か……❗❗

 うむ、すぐに行くよ……」

 蔦屋の旦那は、渋々、頷いて返事をした。


「く……」九五郎の声に僕は顔をしかめた。

 複雑な気分だ。


 九五郎……

 【伝説のアイドル】高原ユウを死に追い込んだ男、黒須クロス久にそっくりな顔……



 そして、いずれ僕……



 いや、平賀源内は、あの九五郎と言う男をあやめる事になるのだろうか……



 動機は借金が原因とも同性愛者ゲイによる痴情のもつれとも言われていた。

 いったいナゼ、平賀源内は九五郎をあやめなければならなかったのだろうか。


「悪いな…… 源内❗❗ ワシもこの頃、忙しくてなァ~……」

「ハ、ハイ…、承知してます……」


「うむ、ワシもおランの事だけに構ってもいられなくて……」

 蔦屋の旦那は布団に寝かされたおランの枕元へにじり寄った。


「ええ……」版元として蔦屋の旦那も忙しい日々を送っているのだろう。


「おラン…… 早く目を覚ましておくれ……」

 旦那はいとしい娘に別れを惜しむみたいに優しく頭を撫で頬擦ほおずりをした。本当の娘に向ける眼差しだ。


「おランの事は僕に任せて下さい❗❗」

 かしこまって頭を下げた。




 ( ^-^)ノ∠※。.:*:・'°☆

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