第6話 百物語 その2



 その次は、部長の高田だった。

「これは、友だちの友だちから聞いた話なんだが」

 部長は、重々しい口調で言った。

「そのマンションでは、天井からの水漏れがひどかったらしい。しかし、設計上その部屋には水道は通っていなかった。しかも、漏れるのはいつも夜だけだったという。ベッドに横たわると、天井から、ぽたん……ぴしゃん……、水滴がこぼれおちる。毎夜毎夜、それが続いた。

 そして、ベッドは水浸しになってしまったんだそうだ。

 困った部屋の主は、近くの神社にお祓いを頼んだ。その神社の神主は、三年前にこの神社にやってきたばかりで、霊能力などなかった。だから弱ってしまったが、とりあえず、お祓いを済ませた。

 すると、それからのち、神主さんのベッドの天井から、ぽたん……ぴしゃん……と……」

「シミが広がってるぞ!」

 声が上がった。

「きゃあっ!」

 増山が、悲鳴を上げた。壁を指している。あきらかに、シミがひろがっている。さっきのがゴキブリだとすると、いまは大きなコウモリぐらいだろうか。

「もう、これ以上はダメです」

 三田村は、まるで手術が不可能な患者に対するような口調だった。

「これ以上、シミがひろがったら、ぼくにも対処できない」

「こんなの偶然だろ」

 おれは、シミに手をふれた。じとっとしている。ねばっこい土のにおいがした。

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