第5話 封じるためなんです。

「なにやってるんだよ」

 おれが三田村のそばによると、

「あのシミを、祈祷でおさえています」

 示す先には、茶色いちいさな壁のシミ。見ようによっては、ゴキブリみたいにも見える。

 三田村は、真剣な表情だ。おれは、三田村の涼しい目と、硬くむすんだ印と、壁のシミを交互に見比べた。

「あのシミが、なんだって?」

「あのシミは、呪われています。こんなところで百物語なんか、しちゃダメだ」

(マジかよ……)

 こわがりなんだろうな、とおれは思った。可笑しくなった。

「おまえ、これが歓迎会だってこと、わかってるのかよ?」

 変わったやつというより、もはや奇人のたぐいだ。

「このシミは、ぼくが最初見たときは、小さなボタンぐらいの大きさでした。それが、たったいま、百物語を始めた直後から、広がり始めているのです」

 三田村はそう説明すると、なにごとか呪文を唱え始めている。

「おうそうかい。面白そうだから、シミをスマホに撮ってやろう」

 おれはスマホにその茶色いシミを写してやった。

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