第4話 百物語、はじまる

「ぼくは構いませんよ。ぼくの知ってる怪談は、たいしたことないですけど」

「それでこそ男だ!」

 高田は、三田村の肩をポンッと叩いた。

「でも、ぼくはちょっと気になることがあって、話に集中できないかも知れません」

 転校生は、落ち着き払ってそう言った。

「気になること?」

 おれが問い返すと、イケメン野郎の三田村は、

「よしましょう、せっかく盛り上がってるのに」

 チラチラ、壁の方を見ながらつぶやいていた。


 さっそく、百物語が始まった。

「わたしの伯母の話なんだけど、すごく不幸なことがあったの」

 増山が、口火を切った。

「どこからどこをとっても健康体だったから、検診もせずに肉ばかり食べてたわけよ。みんな、検診ぐらい受けろって口を酸っぱくしたんだけど、聞く耳を持たなくてね。そしたらあるとき、脳溢血で倒れて、そのままあの世へ行っちゃったの。そしてそのとき、伯母さんの写っていた写真の写真立てが、本棚の奥にあったのに、本棚から落ちて壊れちゃったそうよ……」

 増山は、身を震わせた。

 たいした話じゃねーな、とおれは思った。これぐらいの話なら、逃げる必要はなさそうだ。気になるのはそっちじゃなく、転校生のほうである。さっきから、壁をにらんでブツクサひとりごとを言っている。手を見ると、忍者みたいな印を結んでいた。

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