姚興26 桓玄の才覚は  

しんからの投降者がやってきた。

袁虔之えんけんし劉壽りゅうじゅ高長慶こうちょうけい郭恭かくきょうらだ。

桓玄の下でいることに不安を覚え、

庇護を求め姚興ようこうのもとに亡命してきた。


姚興は東堂にかれらを召喚、

そこで接見した。


姚興、袁虔之に問う。


桓玄かんげんは晋の臣などと名乗っているが、

 実質は国賊であろう。


 やつは父、桓温かんおん

 同じ道を歩んでいるわけだ。


 そなたらから見て、

 桓玄の才覚はいかなるものか?

 父のような大業をなせるような

 能力は持ち得ておるのか?」


袁虔之は答える。


「桓玄は父以来の資源に頼り、

 荊州けいしゅうに覇を唱えました。

 そして建康けんこうの失政につけ込み、

 今や宰相の地位までかすめ取った。


 とはいえ、その政治は

 春秋左氏しゅんじゅうさし伝に言う安忍無親。

 その近くにあって、

 心安んじておれるものなど

 誰一人としておりません。


 位を授けるのは不才の者にばかり、

 爵位はおのが寵愛基準。

 公平と呼ぶには程遠く、

 その手腕を父と較べることすら

 おこがましい、と申せましょう。


 今、かの者は既に

 朝廷の大権を握っております。

 簒奪も時間の問題でしょう。


 しかしながら、

 天下を統べる才があるか?

 それは既に申し上げた通り。


 ならば何者かの手による排除は

 確実になされるところであります。


 すなわち、天が陛下に

 機会をお授けになったのでしょう。


 どうか、陛下。

 速やかにご聖断を下され、

 蒙昧なる呉楚ごその地を

 掃き清め下さいますよう」


この進言に姚興は大喜び。

袁虔之を大司農とし、

それ以外の人物にも位を与えた。


ただ袁虔之は大司農の位を辞退。

国境地帯での貢献を願い出てきたので、

假節、甯南將軍、廣州刺史とした。




晉輔國將軍袁虔之、甯朔將軍劉壽、冠軍將軍高長慶、龍驤將軍郭恭等貳于桓玄,懼而奔興。興臨東堂引見,謂虔之等曰:「桓玄雖名晉臣,其實晉賊,其才度定何如父也?能辦成大事以不?」虔之曰:「玄籍世資,雄據荊、楚,屬晉朝失政,遂偷竊宰衡。安忍無親,多忌好殺,位不才授,爵以愛加,無公平之度,不如其父遠矣。今既握朝權,必行篡奪,既非命世之才,正可為他人驅除耳。此天以機便授之陛下,願速加經略,廓清吳、楚。」興大悅,以虔之為大司農,餘皆有拜授。虔之固讓,請疆埸自效,改授假節、甯南將軍、廣州刺史。


晉の輔國將軍の袁虔之、甯朔將軍の劉壽、冠軍將軍の高長慶、龍驤將軍の郭恭らは桓玄に貳き、懼れ興に奔る。興は東堂にて引見に臨み、虔之に謂いて曰く:「桓玄は名を晉が臣なると雖ど、其の實は晉が賊ならん。其の才度は定めし父とで何如たるや? 大事を辦め成すを以て能うや不や?」と。虔之は曰く:「玄は世資に籍し、荊、楚に雄據し、晉朝の失政を屬め、遂に宰衡を偷竊す。安忍無親なれば、忌みたる多く、殺を好み、位を授くは不才、爵は愛を以て加う。公平の度無く、其の父に如らざること遠かりたり。今、既に朝權を握らば、必ずや篡奪を行わん。既に命世の才に非ざれど、正に他人の驅除を為したるべきのみ。此れ天が機を以て便ち之を陛下に授けたらん。願わくば、速やかに經略を加え、吳、楚を廓清せんことを」と。興は大いに悅び、虔之を以て大司農と為し、餘の皆にも拜授有り。虔之は固讓し、疆埸の自效を請わば、改めて假節、甯南將軍、廣州刺史を授く。


(晋書117-19_政事)




宋書によれば、四品将軍の序列は


冠軍>輔國>甯朔


なんですよね。

なのにここでの順番は


輔國→甯朔→冠軍


になってる。これはどういう意図での順番なのかな。あるいは征虜、冠軍、輔國、龍驤、甯朔の五将にはさほど明確な地位の差がないってことなのか。



それにしても、たとえ形式上のこととはいえ、晋人が姚興に向けて「吳、楚を廓清」って言いだすのとかすごいな。いやまぁ確かに蛮族の王をおだてるのに自分たちの国の基準でほめるのは物語とかじゃよくあることですが。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る