姚萇3  苻堅の怒り   

苻堅ふけん淝水ひすいで敗北! 何度書かせんだこれ。

反旗を翻した慕容泓ぼようおうを討伐するため、

苻堅は息子の苻叡ふえいを派遣する。

姚萇ようちょうは、その副官に。


慕容泓を舐めプした苻叡、

慎重に行きましょうよ、と止める

姚萇の進言を振り払って猪突猛進、

返り討ちとなって果てた。


だから言っただろうに、と

怒れないのが悲しいところである。

趙都ちょうとという側近に苻堅のもとに行かせ、

謝罪をさせた。


が、苻堅。ブチ切れて、趙都を殺す。


ファッ!? これ俺も殺されるやつやん!

姚萇、長安ちょうあんには戻らずに逃亡、

渭水いすい北部で馬僕に身をやつし、

追手の目から逃れようとした。


が、ここに西からの豪族が集まってくる。


尹詳いんしょう趙曜ちょうよう王欽盧おうきんろ

牛雙ぎゅうそう狄廣てきこう張乾ちょうかんら。

五万世帯以上の人を引き連れ、

姚萇を盟主として推戴。

姚萇としては断る心づもりだったのだが、

後に姚萇の参謀として

活躍することになる人物、尹緯いんいが言う。


「各地で災いが起こるのを、みなが

 秦の滅亡の兆しとみております。

 その後の混乱を収められるのが、

 将軍以外にいらっしゃらない、

 そう信じているがゆえに

 豪傑らはここに馳せ参じ、

 推戴を持ちかけました。


 姚萇様にあらせられては、

 どうか彼らの思いを胸に受け止め、

 彼らの提案を受け入れ、

 その思いをお叶え下さいますよう。


 このように家畜共に紛れ、

 座して静観し、

 姚萇様を頼って赴いた人々らを

 見殺しにするべきではございません」




堅既敗於淮南,歸長安,慕容泓起兵叛堅。堅遣子叡討之,以萇為司馬。為泓所敗,叡死之。萇遣龍驤長史趙都詣堅謝罪,堅怒,殺之。萇懼,奔於渭北,遂如馬牧。西州豪族尹詳、趙曜、王欽盧、牛雙、狄廣、張乾等率五萬餘家,咸推萇為盟主。萇將距之,天水尹緯說萇曰:「今百六之數既臻,秦亡之兆已見,以將軍威靈命世,必能匡濟時艱,故豪傑驅馳,咸同推仰。明公宜降心從議,以副群望,不可坐觀沈溺而不拯救之。」


堅の既に淮南にて敗るるに、長安に歸さば、慕容泓は兵を起て堅に叛く。堅は子の叡を遣りて之を討たしめんし、萇を以て司馬と為す。泓に敗るる所と為るに、叡は之に死す。萇は龍驤長史の趙都を遣りて堅に謝罪に詣でしめど、堅は怒りて之を殺す。萇は懼れ、渭北に奔り、遂に馬牧へ如く。西州の豪族の尹詳、趙曜、王欽盧、牛雙、狄廣、張乾らは五萬餘家を率い、咸な萇を推して盟主と為す。萇は將に之を距まんとせど、天水の尹緯は萇を說きて曰く:「今、百六の數は既に臻り、秦の亡びたるの兆は已に見ゆれば、將軍の威靈の世に命ぜらるを以て、必ずや時艱を匡濟せる能いたらんとし、故に豪傑は驅馳し、咸な同じくして推仰す。明公は宜しく心に降じ議に從い、以て群望に副うべし。坐觀沈溺し之を拯救せざるべからず」と。


(晋書116-3_規箴)




尹緯がでた。のちに苻堅から「我が国にそなたのような人材がいたことを見抜けずにいたのであれば滅亡もやむなしだな」と言わせる存在ですが……ここまでのきれいな姚萇さんを見てると、割と「はいはいそうですねー^^」みたいな気分にもなってきます。まぁ、智謀の士だったのは間違いないでしょうけど。


このあたりの姚萇の振る舞いについてはいろんな解釈ができるけど、あえてサイコパス方面にぶち決めるのが面白いのかもですね。まぁ、キャラづけにとんでもない幅をもたせられる人物なのは間違いがないでしょう。


ちなみに十六国春秋では、姚萇に帰順してきた人物として姜協、龎演もここで挙げていました。龎演はこのあと姚萇の副官レベルに抜擢されますが、姜協は行方不明。羌氏内で何らかのトラブルがあって死んじゃったんですかねえ。

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