姚萇2  龍驤将軍    

姚襄ようじょう前秦ぜんしんとの戦いで戦死。

姚萇ようちょうは弟らを率い、苻生ふせいに降伏した。

そこで苻堅ふけんは姚萇を揚武將軍とした。


ここから、大活躍である。


左衛將軍となり、

隴東ろうとうきゅう河東かとう

武都ぶと武威ぶい巴西はさい扶風ふふうと転戦。

また寧州ねいしゅう幽州ゆうしゅう兗州えんしゅうの軍事総督にも。

なお前秦で言う寧州は、

当時東晋とうしんの領地であった

しょくの地との戦線付近を言う。


その後揚武將軍、步兵校尉となり、

益都えきと侯への封爵を受けた。

これは山東シャンドン半島辺りになる。

言ってみれば、出身地と真逆の地に

封爵された形だ。


任官地が示す通り、

実に様々なところの戦争に

駆り出された姚萇は、

どの地でも大きな戦功を挙げた。


ところで、楊安ようあん(前秦の名将の一人)

による蜀討伐に従軍した時のこと。

昼間、川べりにて

姚萇がうたた寝をしていると、

突然天からまばゆき光が

さんさんと降り注いだ。

う、うおぉ、姚萇さまやべえ……!

と、周囲の者たちは驚嘆した。


苻堅が晋を攻めようと計画した時、

姚萇を龍驤將軍、督益梁えきりょう州諸軍事とする。

そして言う。


「朕は龍驤の折に覇業を打ち立てた。

 以来、龍驤は誰にも授けておらぬ。


 その号を、いま、卿に授けよう。

 天下を治めたのちには、

 益州寧州はそなたに一任する!」


これを聞いた竇衝とうしょう、すっと進み出る。


「王者に戲言無し、と申します。

 ならば、ご冗談ではないのでしょうな。


 ただし、龍驤將軍位を、

 かの者に授ける。

 ここには嫌な予感しか致しません。


 このことを、陛下。

 どうかご熟慮なされますよう」


竇衝のこの言葉に、苻堅は黙り込んだ。




及襄死,萇率諸弟降于苻生。苻堅以萇為揚武將軍。曆左衛將軍,隴東、汲郡、河東、武都、武威、巴西、扶風太守,甯、幽、兗三州刺史,復為揚武將軍,步兵校尉,封益都侯。為堅將,累有大功。初,萇隨楊安伐蜀,嘗晝寢水旁,上有神光煥然,左右咸異之。及苻堅寇晉,以萇為龍驤將軍、督益、梁州諸軍事,謂萇曰:「朕本以龍驤建業,龍驤之號未曾假人,今特以相授,山南之事一以委卿。」堅左將軍竇沖進曰:「王者無戲言,此將不祥之徴也,惟陛下察之。」堅默然。


襄の死せるに及び、萇は諸弟を率い苻生に降ず。苻堅は萇を以て揚武將軍と為す。左衛將軍、隴東、汲郡、河東、武都、武威、巴西、扶風太守、甯、幽、兗三州刺史を曆し、復た揚武將軍、步兵校尉と為り、益都侯に封ぜらる。堅が將と為りて累ねて大功有り。初、萇の楊安に隨いて蜀を伐てるに、嘗て晝に水が旁らにて寢たらば、上に神光の煥然なる有り、左右は咸な之を異とす。苻堅の晉を寇ぜんとせるに及び、萇を以て龍驤將軍、督益、梁州諸軍事と為し、萇に謂いて曰く:「朕は本と龍驤を以て業を建てたり。龍驤の號は未だ曾て人に假せず、今、特に以て相い授けん。山南の事は一なるを以て卿に委ねん」と。堅の左將軍の竇沖は進みて曰く:「王者に戲言無し、此の將は不祥の徴たらん、惟だ陛下にては之を察すべし」と。堅は默然とす。


(晋書116-2_暁壮)




竇衝のところにもあったお話ですが、ここについての補足を敢えてしておきましょう。「龍驤将軍の苻堅が、苻生を討った」。そして後日、「もと龍驤将軍の姚萇が、苻堅を殺した」。こうして竇衝の言葉には、ただならぬ重さが載ってくるわけです。

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