晋書載記 後秦

巻116 姚萇載記

姚萇1  兄を救う    

姚萇ようちょう、字は景茂けいも

姚弋仲ようよくちゅうの四十二人の子の、第二十四子だ。

小さな頃から聡明で、策謀にも長ける。

奔放で自由な天才であり、

特に修行らしい修行もしないが、

兄弟からはやべえと思われていた。


父が死ぬと、兄の姚襄ようじょうが一族を率いる。

東晋とうしん前燕ぜんえんのはざまで戦い、

そこに姚萇も参謀として大いに寄与する。


姚襄が洛陽らくようを襲撃したときのこと。

ある夜、夢を見た。

姚萇が皇帝の服を着て玉座に座り、

各地の酋長が姚萇に向けかしずいている、

と言うものだ。姚襄は側近らに言う。


「この夢には、心当たりがある。

 やつのスケールは、たしかにやばい。

 あるいは、やつこそがこの一門を

 大いに隆盛させるのだろう」


東晋軍として、前秦ぜんしん軍と戦ったとき。

麻田までんと言う地で、姚襄は敗北。

撤退しようかというときに、

流れ矢が姚襄の馬に当たり、死んでしまう。

それを見た姚萇、馬から降り、

自らの馬を姚襄に差し出す。


「ばかな! そんなことをして、

 お前はどうやって生き延びるのだ!」


「兄上を助ける、それだけです。

 どのみちこわっぱ共に、この姚萇を

 殺すことなぞできませぬ!」


やがて救援が到着すると、

二人とも無事に生還できた。




萇字景茂,父弋仲有子四十二人,萇第二十四子也。少聰哲,多權略,廓落任率,不修行業,諸兄皆奇之。隨襄征伐,每參大謀。襄之寇洛陽也,夢萇服袞衣,升御坐,諸酋長皆侍立,旦謂將佐曰:「吾夢如此,此兒志度不恆,或能大起吾族。」襄之敗于麻田也,馬中流矢死,萇下馬以授襄,襄曰:「汝何以自免?」萇曰:「但令兄濟,豎子安敢害萇!」會救至,俱免。


萇は字を景茂、父の弋仲は子を四十二人に有し、萇は第二十四子なり。少きに聰哲にして權略多く、廓落任率にして行業を修めざれど、諸兄は皆な之を奇とす。襄の征伐に隨い、每に大謀にて參ず。襄の洛陽を寇じたるや、萇の袞衣を服し御坐に升り、諸酋長の皆な侍立したるを夢せば、旦に將佐に謂いて曰く:「吾が夢此の如きなれば、此の兒の志度は恆ならず、或いは吾が族を大起せる能わん」と。襄の麻田に敗せるや、馬に流矢が中りて死さば、萇は下馬し以て襄に授く。襄は曰く:「汝は何ぞを以て自ら免れんか?」と。萇は曰く:「但だ兄に令し濟わしめんのみ。豎子に安んぞ敢えて萇を害せんか!」と。救の至れるに會し、俱に免ず。


(魏書116-1_胆斗)




さあ、前秦載記でオモシロを炸裂させまくった姚萇さんの伝、はーじまーるよー!


ちょっとだけ魏書ぎしょからの情報(父親の子供の数)を混ぜ込みました。ビッグダディやんけ……。


それにしても奔放な天才、しかも兄想い、というか生存に絶対の自信とか、いきなり設定が大渋滞起こしてんのが面白すぎます。

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