曇邕2  おん出される  

長安ちょうあんに帰還したところで、

俗世に嫌気が差したのか、

釈道安しゃくどうあんを師と仰ぎ、出家。

が、まもなく釈道安が死ぬ。

なので曇邕どんよう東晋とうしん入りし、

長江中下流域、建康けんこうの南西に位置する

廬山ろざん慧遠えおんのもとにおもむき、弟子入り。


そこで廬山内外の経典を広く読み込み、

仏法を広める意志はますます高まり、

そのための労苦を厭わなかった。


のちに慧遠の書簡を携え、

長安の鳩摩羅什くまらじゅうに届ける、

という大任を拝領。

このお役目に、およそ十年従事した。


世の中を鼓舞し、振り動かせば

その効果は峰々をも揺り動かさんばかり。

たくましく、果断に、おのが役目を

決して誰からもバカにされないよう、

立派に成し遂げる。

建康で寺を持っていた僧鑒そうかんは、

曇邕の高名を聞き、ぜひとも我々とともに

修行をしてほしい、と願い出てきた。


この話を聞いた曇邕。しかしこの頃、

慧遠がかなりの高齢となっていた。

歳老いた師を置いていく訳にはゆかない、

なので曇邕、この話を辞退した。


はぁ!?


ここで不穏な動きをいたします。

神足や高抗。いわゆる、高弟の皆様。

あ、固有名詞ではないみたいです。


彼らは思う。

あいつに廬山でのさばられたら、

俺らの栄達やばいんだけど!?


うーん、寺も所詮は俗世。


高弟の皆様は示し合わせ、

曇邕にくだらない用事を押し付け、

山から追い出す。


あ、ご命令なのね?

曇邕は曇邕で、サラッと受け入れた。

その面持ちに恨みの色はなかったという。

いい加減、高弟の皆様に

うんざりしていたのだろう。


面倒ごと、厄介ごとから解放され、

曇邕は廬山の南西にあばら家を建て、

そこで弟子の曇果どんかとともに、

お互いの思索を磨き上げていった。




還至長安,因從安公出家。安公既往,乃南投廬山,事遠公為師。內外經書,多所綜涉,志尚弘法,不憚疲苦。後為遠入關,致書羅什。凡為使命,十有餘年。鼓擊風流,搖動峰岫,強捍果敢,專對不辱。京師道場僧鑒,挹其德解,請還楊州,邕以遠年高,遂不果行。然遠神足高抗者,其類不少,恐後不相推謝,因以小緣託擯邕出。邕奉命出山,容無怨忤,乃於山之西南營立茅宇,與弟子曇果澄思禪門。


還じ長安に至らば、因りて安公に從い出家す。安公の既に往きたらば,乃ち廬山に南投し、遠公に事え師と為す。內外の經書、多きを綜涉せる所にして、志は尚も法に弘く、疲苦を憚らず。後に遠が為に入關し、書を羅什に致す。凡そ使命を為すに、十有餘年なり。鼓擊風流、搖動峰岫、強捍果敢にして、專ら對うるに辱めず。京師の道場の僧鑒は其の德解を挹し、楊州に還ぜんことを請えど、邕は遠の年高きを以て、遂に行を果さず。然して遠が神足高抗なるは其の類少なからず、後に相推謝せざるを恐れ、因りて小緣を以て邕に託擯し出す。邕は命を奉じ山を出で、容に怨忤無く、乃ち山の西南に茅宇を營立し、弟子の曇果と澄思禪門す。


(高僧伝6-31_徳行)




廬山のどこが聖域だよバーカwwwって気分でした。所詮は人間の集まりですのう。慧遠はきっと偉大な人だったのだろうね。あるいは曇邕に廬山の腐った社会とあまり接触させたくなかったのかな。


それにしても、曇邕の動きを見ると、もしかしたら弘農こうのう楊氏だったのかもしれませんね。要は中原の名族オブ名族。なので、東晋社会にも割とスムーズに受け入れられた、みたいな。「あるいは関中人かも」ってエクスキューズも、これなら通る気がする。


ただその場合、苻氏と弘農楊氏とのつながりが見いだせないと死に筋なんだよなあ。「衛将軍みたいなとんでもないセレブを輩出する家柄の人」って部分は決して揺らがないわけで。


まぁ、王猛おうもうを丞相につけた苻堅ふけんなら、どこともしれぬ木っ端楊氏にいきなりそんな大抜擢きめることもありえないことじゃない、って考えもできなくはないわけですが。


うーん、苻堅の任用の性格に、もうちょっと踏み込まないとこの疑問は解けなさそうだなー。

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