王嘉2  苻堅に答える  

苻堅ふけんしんを制圧しよう、と考え、

王嘉おうかのもとに使者を飛ばし、

その成否を占わせた。


まずは王嘉、「金剛火は強し」と語る。

そのあと使者の乗ってきた馬を借り、

衣冠を正して東に、数百歩。

そこで突然馬にムチを打って戻ってきた。

しかも冠、履物も脱ぎ捨てる。服も脱ぐ。

下馬して座り込み、無言となった。


「揃えるだけのものを揃えて

 東に向かったら、そこでえらい目に。

 あらゆるものを捨て、逃げ帰る」。

まさに淝水ひすいの顛末である。


とは言え使者にしてみれば、

何をやっているのかよくわからない。

なのでわからないなりに、苻堅に報告。

苻堅もわからない。おまえら……。


そこで苻堅、質問を変えることにした。

「我が治世はいかなるものか?」


王嘉は「未央びおう」とだけ答えた。


治世が、未央!

未央宮といえば、真っ先に思い浮かぶのは

「皇帝の治所」である。

つまり、これからも苻堅が

長安ちょうあんに君臨し続けられる!


人々は、そのように解釈したようである。


が、翌 383 年。癸未みずのとひつじの年。

ご存知、淝水の大敗である。

つまり「未の年にわざわい有り」

の意味であった。



その後も苻堅と付き合いを続けたようだが、

誰かが訪問してきても、気が向けば会う、

そうでなければ身を隠す、と、

フリーダムな対応をしていた。


とは言え家には

衣服も、履物も杖も残っている。

会えなかった人々は、衣類を奪えば

出てくるのではないかと期待したが、

結局出てこない。


それでもなお、

衣服強奪を試みる奴らが挑戦する。

するとハンガーラックの位置が

ぐんぐん高くなっていく。


王嘉の家は大して大きいわけではない。

にもかかわらず、靴入れや杖掛けも、

似たような感じになった。




初、堅將欲南征、遣使者、問其休咎嘉曰:「金剛火彊。」乃乗使者馬、正衣冠、徐徐東行數百歩、策馬馳反、因脫衣服、棄冠履而歸、下馬踞床、一無所言。使者還告、堅不悟、復遣問之曰:「吾世祚云何?」嘉曰:「未央。」咸以為言。明年癸未、敗於淮南、所謂「未年、而有殃。」也。人候之者、至心則見之、不至心則隱形不見。衣服在架、履杖猶存、或取其衣者、終不及、企而取之。衣架踰髙、而屋亦不大、履杖諸物、亦如之。


初、堅の將に南征せんと欲せるに、使者を遣わせ、其の休咎を嘉に問わば、曰く:「金剛火は彊し」と。乃ち使者が馬に乗り、衣冠を正し、徐徐に東行せること數百歩、馬に策ち馳せ反り、因りて衣服を脫ぎ、冠履を棄て歸り、下馬し床に踞し、一に言いたる所無し。使者は還りて告げ、堅は悟らず、復た遣わせ之を問わしめて曰く:「吾が世祚は云何?」と。嘉は曰く:「未央」と。咸な以て言を為す。明年癸未、淮南にて敗る。所謂「未年に殃有り」なり。人の之を候うに、心至らば則ち之に見え、心至らずば則ち形を隱し見えず。衣服は架に在り、履杖は猶お存せど、或いは其の衣を取らんとせる者、終に及ばず。企みて之を取らんとせど、衣架は踰いよ髙し。屋は亦た大きからざるに、履杖が諸物、亦た之の如し。


(十六国42-13_術解)




後半がよく意味わかんないですね。前半は掛け値なしに面白い。そんなんやられても誰もわかんないわよね、ってゆう。しかしこうなってくると、逆説的に苻堅からの信頼待ったなしになったんだろうなあ。


つーかこの人、苻堅のことおちょくり倒したとか? そうやって考えると、次話のエモみが増しそうです。

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