王嘉1  おどけた予言者 

王嘉おうか、字は子年しねん隴西ろうさい安陽あんよう県の人だ。

ふわふわとしたふるまい、醜悪な顔。

外見はひどいものだったが、

その内面は聡明であった。

冗談好きで、よく語っては笑っていた。


食事では穀物を摂らず、

きれいな衣服を纏うこともなかったが、

妙にこざっぱりとしていた。


人と交わりを持つことを好まず、

東陽とうようの崖に穴を開け、その中で暮らす。

しかし彼を慕うものが同じように

穴を開けたて暮らしたため、

崖には百余りの穴ができたそうである。


群れたくないっちゅーねん!

石虎せきこの時代の末、

王嘉は彼らを置き去りにし、長安ちょうあんに。

終南山しゅうなんざんに庵を結び、そこにとどまった。


置いてけぼりとなった

自称弟子たちのうち何人かは、

やはりかれに追いつこうとする。

なので王嘉は更に倒虎山とうこさんに逃げた。

玄象山とも呼ばれる山だ。


そこからも更に点々としたようである。

苻堅ふけんがその評判を聞いたときには、

覆車山ふくしゃざんの北に潜んでいた、という。


苻堅、ちょくちょく王嘉を招聘。

だが王嘉は応じようとしない。

やがて公爵侯爵レベルのものが

自ら訪問するにまでいたり、

「わかってる」奴らはみな、

彼の師事を請おうとした。

隠者のはずの王嘉であったが、

何故か世俗の質問にも、

たちまち答えることができたそうである。


その語り口にはたとえ話が多く、

また誰かをいじるところがあった。


時々未来のことも話すのだが、

その時の口ぶりは、まるで預言書。

その時は誰もがキョトンとするのだが、

あとで必ずその予言は的中した。




王嘉字子年、隴西安陽人也。輕舉止、醜形貎、外不足若、而聰睿內明。本滑稽好語笑。不食五糓、不衣美麗、服氣清虛。不交逰世人、隱東陽谷、鑿崖為穴、居之。諸有其學從者、人各一穴、遂至百餘穴。石虎之末、棄其徒眾、至長安。濳隱終南山、結庵廬而止之。門人聞復隨、乃遷倒虎山(一名玄象山)遷。在覆車山北、堅累徵、不起。公侯以下咸躬往叅詣、好尚之士、無不師宗之、問其當世事者、皆隨問而對。好為譬喻、狀如戲調。言未然之事、辭如讖記、不可領解、事過多驗。


王嘉は字を子年、隴西の安陽の人なり。舉止輕く、形貎醜く、外は若くに足らざれど、聰睿にして內は明なり。本より滑稽にして語笑を好む。五糓を食さず、美麗を衣せず、服したる氣は清虛なり。世人と交逰せず、東陽谷に隱れ、鑿崖に穴を為し、之に居す。諸もろ其の學に從う者有らば、人は各おの一に穴し、遂に百餘穴に至る。石虎の末、其の徒眾を棄て、長安に至る。終南山に濳隱し、庵廬を結びて之に止む。門人は聞きて復た隨わば、乃ち倒虎山(一名に玄象山)に遷る。覆車山が北に在らば、堅は累しば徵ぜるも、起たず。公侯以下は咸な躬から叅詣に往き、好尚の士に、之に師宗せざる無く、其の當世の事なるを問わば、皆な問に隨いて對う。譬喻を為すを好み、狀は戲調せるが如し。未然の事を言いたらば、辭は讖記が如くして、領解すべからざるも、事の過ぐるに多な驗ず。


(十六国42-12_為人)




苻堅さんの周りには趙整とか王嘉みたいな胡散臭い人が屯してますね……まぁ趙整はまだ世俗に深く触れてる気配があるんだけど、王嘉はなぁ。胡散臭さ爆発しすぎ。まぁ好きなんですけど。

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