索泮2  涼州の仁義   

淝水ひすいの敗戦後、大荒れとなる旧前秦ぜんしん領。

旧君主の張天錫ちょうてんしゃく東晋とうしんに帰順したが、

索泮さくはん梁熙りょうきという人の下で、

引き続き西方エリアを守っていた。


そこに攻め込んできたのは、

姑臧こぞうで自立、長安ちょうあんに攻め込まんとする呂光りょこう

索泮はあえなく敗北し、捕まった。


もと同僚として、その手腕は

よく耳にしていたのだろう。

呂光は索泮に言う。


「余は既に西域を平らげ、

 長安の危機を救わん、と考えている。

 道中、梁熙を害してしまったが、

 それは、やつが余に

 いわれなき罪をかぶせ、

 襲いかかってきたためである。

 長安への帰途にて、

 罪人に道を塞がれたのを

 排除したにすぎぬのだ。


 そんな余を、どうしてそなたまでもが

 守りを固め、阻まんとする?

 何を血迷い、悪人と

 振舞いを同じくするのだ?」


索泮、きっと呂光を睨みつけ、言う。


「將軍は確かに陛下よりの命を受け、

 西方の蛮族を平らげられた。

 だがそのご命令のどこに、

 涼州を乱せ、と記されていたのだ?


 梁熙様のどこに罪があったのか、

 説明をしてみられよ!


 私はかのお方に恩顧を受けたる身。

 力及ばずして貴様に破れたのは

 口惜しき事なれど、どうして主の仇たる

 謀反者の氐族になぞ屈服できようか!


 彭濟望風し、謀反者の意を挫くことこそ

 謀反者に滅ぼされた者の部下が、

 命を賭してでも成すべき事であろう!」


呂光は怒り、索泮を処刑させる。

死刑場に赴く索泮は、

平然とした顔であったという。



なお弟の泮菱さくりょうもまた俊才であった。

張天錫のもとでは執法中郎、冗從右監に。

前秦では伏波將軍、典農都尉になる。


かれもまた、呂光に殺された。




淮南之敗、呂光叛據姑臧、泮城守不降、光攻而獲之、讓泮曰:「孤既平西域、將赴難京師。梁熈無狀絕。孤歸路此朝廷之罪人。卿何意阻郡固、迷自同元惡?」泮厲色責光曰:「將軍受詔討叛胡、可受詔亂涼州耶。梁公何罪而將軍害之?泮但苦力寡不能固守、以報君父之仇耳!豈肯如逆氐、彭濟望風、反叛主滅臣死禮之常也!」光怒命誅之。乃就刑於市、神色不變、其弟菱、有雋才、仕天錫、為執法中郎、冗從右監。堅世、至伏波將軍、典農都尉。與泮俱被害。


淮南の敗にて、呂光は叛し姑臧に據し、泮は城を守り降ざずば、光は攻め之を獲え、泮を讓りて曰く:「孤は既に西域を平らげ、將に京師が難に赴かんとす。梁熈は狀無くして絕ちたり。孤は歸し此の朝廷の罪人を路さんとす。卿は何ぞの意にて阻みて郡を固め、迷いて自ら元惡に同ぜんか?」と。泮は色を厲しくし光を責めて曰く:「將軍は詔を受け叛胡を討ちたれど、詔を受け涼州を亂したるべかりや。梁公に何ぞの罪ありて將軍は之を害したらんか? 泮は但だ苦はだ力寡きにして固守能わざれど、以て君父の仇に報いたらんとせるのみ! 豈に逆氐に如くを肯んぜんか! 彭濟望風し、叛主に反したるは滅臣死禮の常なり!」と。光は怒りて命じ之を誅す。乃ち市にて刑に就きたるに神色は變ぜず。其の弟の菱も雋才を有し、天錫に仕え、執法中郎、冗從右監為る。堅が世にて伏波將軍、典農都尉に至る。泮と俱に害を被る。


(十六国42-6_衰亡)




十六国春秋だけだと、梁熈との関係がいまいち見えづらいですね。とりあえず兄弟揃ってかっこいい。


しかし姚萇に呂光とか、危険度マックスの大怪獣が暴れまわりすぎでしょ西方戦線……。

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