苻登5  復讐を誓う   

苻登ふとう苻堅ふけんを祀る社を陣中に築く。

それを羽葆青蓋、黃旗の車、

つまり、皇帝の乗る車に乗せ、

近衛兵三百人に護衛させた。


戦争をなそうというとき、

苻登は必ずこの廟に報告。

どのように戦いたいかを告げた後、

出征した。


そして、

いよいよ攻勢に出よう、というとき。

兵らの装備を修繕し、

廟の前に布陣させ、廟に宣言する。


「陛下の曾孫として即位致した、

 臣、登が申し上げる。


 陛下の霊をここに奉り、

 あわせて至尊の位を、かたじけなくも

 お預かりする次第である。


 五将ごしょう山にて陛下の御身を

 クソ羌に害されたるを、臣は

 お守りすることが叶わなかった。

 これはまこと、臣の罪である。


 なればこそ今、兵らと思いを一とした。

 五万余の軍勢は精甲勁兵。

 ならばクソ羌をも殺し得よう。


 また、今年は例年になき豊作。

 ならば、我らが軍資は十分に保とう。


 故に我らは、まさに今をこそ好機とし、

 電光石火の勢いで

 クソ羌の縄張りに乗り込み、

 身命を顧みず、戦おう。


 そうして、上では陛下の蒙りたる

 酷薄なるさだめに報い、

 下では子や臣下が蒙りたる、

 かの大いなる恥を雪ごう。


 どうか、陛下よ。

 我らを見守ってはくださるまいか!」


そして、苻登は慟哭した。

この言葉に、臣下らも皆泣いた。


苻登の配下らは、武器防具に

「死休」と刻んだ。

死してはじめて休める、というわけだ。


戦いが始まれば、苻登軍は長ものを構え、

ある時は方陣(四角型の陣)、

ある時は円陣を大きく構える。

陣のうちのどこかで防備が甘くなれば、

内側から予備兵を出し、充当する。


一人ひとりが自律的に戦うため、

誰もこの陣を突き崩せなかった。




立堅神主於軍中、載以輜軿,羽葆青蓋,車建黃旗,武賁之士三百人以衛之,將戰必告,凡欲所為,啟主而後行。繕甲纂兵,將引師而東,乃告堅神主曰:「維曾孫皇帝臣登,乙太皇帝之靈恭踐寶位。昔五將之難,賊羌肆害於聖躬,實登之罪也。今合義旅,眾余五萬,精甲勁兵,足以立功,年谷豐穰,足以資贍。即日星言電邁,直造賊庭,奮不顧命,隕越為期,庶上報皇帝酷冤,下雪臣子大恥。惟帝之靈,降監厥誠。」因覷欷流涕。將士莫不悲慟,皆刻鉾鎧為「死休」字,示以戰死為志。每戰以長槊鉤刃為方圓大陣,知有厚薄,從中分配,故人自為戰,所向無前。


堅が神主を軍中に立て、以て輜軿に載せ、羽葆青蓋、車は黃旗を建て、武賁の士三百人を以て之を衛り、將に戰せんとせば必ず告げ、凡そ為したる所を欲さば、主を啟し後に行う。甲を繕い兵を纂ぎ、將に師を引きて東し、乃ち堅が神主に告げて曰く:「維れ曾孫皇帝、臣登。乙太皇帝の靈を恭踐し寶位す。昔、五將の難にて、賊の羌の聖躬を肆害したるは、實に登の罪なり。今、義を旅と合せ、眾は五萬に余り、精甲勁兵、以て立功せるに足らん。年に谷は豐穰なれば、以て資贍せるに足らん。即日、星言電邁し、直ちに賊庭に造り、奮いて命を顧みず、隕越し期と為し、庶そ上にては皇帝が酷冤に報い、下にては臣子の大恥を雪がん。惟れ帝の靈、降監厥誠たらん」と。因りて覷欷流涕す。將士に悲慟せざる莫し。皆な鉾鎧に刻みて「死休」字を為し、以て戰に死し志を為したるを示す。戰の每、長槊鉤刃を以てて方圓大陣を為し、厚薄有せるを知らば、中より分配し、故に人は自ら戰を為し、向う所に前無し。


(晋書115-16_暁壮)




慕容永と違って人望はある感じですが、なんだかんだであのマッドピエロ、強いですからねぇ……。


あと、なんだかんだこの辺には「将来的にアレ」みたいな気配も感ぜられます。まぁ、正直苻登についてくのってしんどそうだよね。

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