苻丕5  檄文      

苻丕ふひのもとに、きら星のごとく

武将が集まってきた!

では、ここで決意表明だ!

苻丕のもとにいた王猛おうもうの息子、

王永おうえいが檄文を書き上げ、発布する。



「先帝が天下より旅立たれてのち、

 天下は主を失っていた。


 そこに先帝のご子息、苻丕様が、

 その天に嘉された武をもって

 関東の他に立たれた。

 こうして、国には再び徳望が

 もたらされた。


 私、王永や張蠔ちょうしらは天の意思のもと、

 先帝を失った哀しみを懐き、

 武具を抱え、夜明けを待ち、

 外敵らより受けた恥を

 雪いでゆかねばならない、と決意した。


 慕容垂ぼようすいが関東でのさばり、

 慕容泓ぼようおうちゅうの兄弟は長安ちょうあんで暴れ、

 このため先帝は長安より逃れ、

 祖霊の祭祀が途絶えてしまった。


 そして我が国に飼われていた、姚萇ようちょう

 慕容どもの反乱に乗じ、先帝を捕え、

 こともあろうに、先帝を弑逆。

 奴こそが、最悪の巨賊と言えよう。


 この王永、父の代より国恩を頂戴し、

 将軍、宰相として、働いて参った。

 驪山りざんの西戎、滎澤けいたくの北狄と、

 これ以上、天下を共にしておれようか!


 諸臣下、あるいはえんはい出身の宗臣、

 あるいは 28 名の旧勲の士らよ。

 国をズタボロにしたクソガキども、

 主を殺した凶賊どもを、

 むざむざのさばらせておれようか!


 主上の即位にあたり、

 易では最良の卦、けんの卦が出た。


 今、ここには主上の義に応じ、

 集った勇士三十万余がいる。


 寒浞かんそくに殺されたの帝、しょう

 彼の仇は、その息子、少康しょうこうが取った。

 また、いちど滅びたかん

 立て直した、光武帝こうぶてい

 今の我々であれば、

 彼らのような業績を、

 十日と経たずして成し遂げられよう。


 ここに、

 衛將軍の俱石子ぐせきしを前軍師とし、

 司空の張蠔を中軍都督とする。

 武将、勇者は烈風、迅雷のごとし。

 悪逆の徒を討ち果たす、

 それ以外を顧みることはない。

 主上を推戴し、我々が天罰となるのだ。


 君臣らよ、身命を惜しまず戦おうぞ。

 力を合わせ、春秋の昔、

 しんていが成し遂げたような中興を、

 我らの手で成し遂げん!」




於是王永宣檄州郡曰:「大行皇帝棄背萬國,四海無主。征東大將軍、長樂公,先帝元子,聖武自天,受命荊南,威振衡海,分陝東都,道被夷夏,仁澤光於宇宙,德聽侔于『下武』。永與司空蠔等謹順天人之望,以季秋吉辰奉公紹承大統,銜哀即事,棲穀總戎,枕戈待旦,志雪大恥。慕容垂為封豕於關東,泓、沖繼凶於京邑,致乘輿播越,宗社淪傾。羌賊姚萇,我之牧士,乘釁滔天,親行大逆,有生之巨賊也。永累葉受恩,世荷將相,不與驪山之戎、滎澤之狄共戴皇天,同履厚土。諸牧伯公侯或宛沛宗臣,或四七勳舊,豈忍舍破國之醜豎,縱殺君之逆賊乎!主上飛龍九五,實協天心,靈祥休瑞,史不輟書,投戈效義之士三十餘萬,少康、光武之功可旬朔而成。今以衛將軍俱石子為前軍師,司空張蠔為中軍都督。武將猛士,風烈雷震,志殄元凶,義無他顧。永謹奉乘輿,恭行天罰。君臣終始之義,在三忘軀之誠,戮力同之,以建晉、鄭之美。」


(晋書115-5_文学)




地味に苻堅の光武帝ラブをきっちり取材してる王永さんのお仕事が光る檄文です。四七じゃねえよ。なに光武帝の業績おまけみてえに語ってんだ。本当は全開で語りたいんだろ、おん?


……みたいなのをじんわりと感じられて良いですね。


それにしても檄文で晋、鄭を建てることを美しいと語るのが面白すぎる。列挙の仕方からしたら春秋時代の晋および鄭って考えるべきだが、すでに東晋の力を借りてる苻丕の立場からしたら、東晋だって立てなきゃいけない相手だ。称帝したってことは表向きアンチ晋っぽく振る舞うが、「慕容垂を倒して」外交が発生した局面において「やだなー、うちは司馬晋マジリスペクトなんですって!」って言えるだけの逃げ道を用意しとくべき、なんだろうね。いやぁ、したたかというかなんというか。まあ仮定が無理ゲーすぎるけど。


つーか、もうちょい苻丕政権の皆さんを称える内容になってくれるんじゃないかなーって期待したんだけど、メインキャストしか紹介する気ないんですね……并州に名前が知れ渡ってない人々ばっかりだから、変に名前出してもしかたない、みたいな感じなんでしょうか。

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