慕容永2 慕容沖の死   

慕容沖ぼようちゅうは関中で暴れ回る。

そのせいで住民は離散し、

街道からは往来が絶え、

辺りを見回しても、

どこからも炊事の煙が

上がることはなかった。


慕容沖の攻めを受け、

苻堅ふけん長安ちょうあん城を脱出、

五將山ごしょうざんに出奔する。

そして、そこで姚萇ようちょうに殺される。


主を失った長安城に慕容沖は入城。

兵たちには好き放題に略奪させた。

数え切れないほどの死者が出たという。


ところで、淝水ひすいの戦いの前、

関中で原因不明の煙が

立ち込めることがあった。


それが発生したのが、

十キロ四方の広さと言うのだから、

相当なものである。

そんな事態が、一カ月ほど続いた。


苻堅はこれに対する訴えを聴取の上、

長安城の北に、前秦に対して

恨みを持つ者が引き起こしているのだ、

と結論づけた。


長安の人びとは言う。


「誰かをあぶり出したいが為の

 でっち上げなんじゃねえの?」


同時期、長安周辺でこんな狂歌が流行る。


 長鞘馬鞭擊左股

  騎馬武者が左股を叩く。


 太歲南行當復虜

  木星は南に向かい、

  鮮卑を復活させるだろう。


てい人、きょう人は、復姓のものを

白虜はくりょと呼んでいた。

おそらくこれは、鮮卑が

コーカソイド系であったから、

そう呼ばれたのだろう。


そこにやってきたのが、鮮卑。


長安に居座った慕容沖は、

破壊と収奪の限りを尽くし、

えんの復興の大志など

忘れ去ったかのごとくだった。


と言うのも、

東では慕容垂ぼようすいが勢力を伸ばしていた。

慕容沖の皇帝即位は、

慕容垂への諮問が一切なされていない。

つまり自分から共闘を

破棄したようなものであり、

いつ慕容垂に攻めかかられても

おかしくなくなっていた。


そこで復興のための農業を奨励、

一方では自らのための宮殿建設を命令。

国家の安寧を図る、と宣言したが、

やっていることが、

あまりにもちぐはぐである。


なので人々は慕容沖に対し、

恨みを抱くようになった。


そして 386 年、慕容沖の配下であった

韓延かんえんが、遂に慕容沖を殺害。

その武将の段隨だんずいを燕王に推戴し、

年号を昌平しょうへいと改めた。


なお、慕容沖が長安入りしたとき、

苻堅の相談でもあった占い師、王嘉おうか


「鳳皇、鳳皇や。

 どうして故郷へと

 飛び去ろうとせんのだ?


 わけもなくこのような地におれば、

 破滅しか待ち受けておらんだろうに」


と語った、とされている。




沖毒暴關中,人民流散,道路斷絕,千里無煙。及堅出如五將山,沖入長安,縱兵大掠,死者不可勝計。初,堅之未亂也,關中土燃,無火而煙氣大起,方數十里,月餘不滅。堅每臨聽訟觀,令民有怨者,舉煙於城北,觀而錄之。長安為之語曰:「欲得必存,當舉煙。」關中謠曰:「長鞘馬鞭擊左股,太歲南行當復虜。」西人呼徒何為白虜。沖果據長安,樂之忘歸,且以慕容垂威名夙著,跨據山東,憚不敢進,課農築室,為久安之計。眾咸怨之。登國元年,沖左將軍韓延因民之怨,殺沖,立沖將段隨為燕王,改年昌平。沖之入長安,王嘉謂之曰:「鳳皇,鳳皇,何不高飛還故鄉?無故在此取滅亡!」


沖は關中を毒暴し、人民は流散し、道路は斷絕し、千里に煙無し。堅の出で五將山に如くに及び、沖は長安に入り、兵を縱とし大いに掠し、死者は計うるに勝るべからず。初、堅の未だ亂れざりたるに、關中が土は燃え、火無くして而して煙氣の大いに起つるに、數十里に方じ、月餘にても滅さず。堅は臨聽訟觀の每、民をして怨みたる者有りて煙を城北に舉ぐるを觀さしめ之を錄す。長安は之が為に語りて曰く:「必ずや存せるを得んと欲したらば、當に煙は舉らん」と。關中の謠に曰く:「長鞘馬鞭は左股を擊ち、太歲は南行し當に虜を復さん」と。西人は徒何を呼びて白虜と為す。沖は果して長安に據し、之に樂しみ歸すを忘れ、且つ慕容垂の威名の夙に著にして山東に跨據せるを以て、憚り敢えて進まず、農を課し室を築き、久安の計と為す。眾は咸な之を怨む。登國元年、沖の左將軍の韓延は民の怨みに因りて沖を殺し、沖が將の段隨を立て燕王と為し、年を昌平に改む。沖の長安に入りたるに、王嘉は之に謂いて曰く:「鳳皇、鳳皇、何ぞ高く飛びて故鄉に還ぜんか? 故無きに此に在らば滅亡を取らん!」と。


(魏書95-26_仇隟)




慕容沖の自殺とも言うべき振る舞いの数々。ではこの辺で自作宣伝です。「斯くして鳳皇、紫微垣より」と言う、慕容沖の一生を扱ったもの。


https://kakuyomu.jp/works/1177354054882893473


それにしても慕容永伝のはずなのに一切慕容永出てこねえな! なんだこれ。いいけど。

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