魏書 慕容永伝

慕容永1 前燕の宗室   

西燕 慕容永ぼようえい



慕容暐ぼよういの死によって、

前燕は実質滅んだと言っていい。


が、その後を継いだ、

と自称する勢力が二つ現れた。

一つが慕容垂ぼようすいの率いる勢力。

いわゆる後燕こうえんだ。


そしてもう一つが、

慕容沖ぼようちゅう率いる勢力。西燕せいえんだ。


ネタバレしてしまうが、

慕容沖はあっさり殺され、

最終的に慕容永がこの国を

けん引することになる。


その慕容永。字は叔明しゅくめいという。

祖父は慕容運ぼよううんと言い、

前燕勢力を興した慕容廆ぼようかいの弟だ。

つまり、前燕の傍流宗室である。


前燕が滅ぼされた時、慕容暐らとともに

慕容永も長安に連行されていた。


そこで貧乏暮らしをしており、

妻と共にわらじを売って暮らしていた。


慕容暐が苻堅ふけん暗殺計画を

立ち上げた頃には長安ちょうあんを脱出しており、

慕容沖に合流していた。


慕容暐死亡のニュースを受け、

皇帝即位を宣言する慕容沖。

慕容永には、

わずかな部隊の隊長を命じる。

合流の段階では、さほど信任を

受けていなかったようである。


だが、その戦才は凄まじいものだった。

苻堅が遣わせてきた苟池こうちと言う将軍と、

驪山りざんにて正面衝突。

ここで慕容永の隊は苟池を斬り、

あわせて数千もの首を挙げた。


この敗戦に、苻堅は激怒。

今度は楊定ようていと言う将軍を派遣。

率いるは精騎二千五百である。


そして、この将軍が凄まじく強い。

慕容沖軍はコテンパンにされた。

併せて率いていた鮮卑の民

一万余りが捕虜としてさらわれた。


楊定が捕虜を連れて引き返してくると、

苻堅、鮮卑らをことごとく

(しまっちゃうおじさん)した。


再び出撃した楊定。

今度は慕容沖の側近、慕容憲ぼようけん

灞水はすい滻水さんすいの間、要は長安城の

やや東の地で大破した。


えっちょ、楊定ヤバない?

慕容沖、楊定に対する警戒マックス。

そこに慕容永が進言、落とし穴を提案した。


この案を慕容沖は採用、

阿房宮あぼうきゅうの周辺に穴を開けさせた。

併せて慕容永を側近に引き立てた。




廆弟運,運孫永。永,字叔明。暐既為苻堅所并,永徙於長安,家貧,夫妻常賣靴於巿。及暐為堅所殺也,沖乃自稱尊號,以永為小將。沖與左將軍苟池大戰於驪山,永力戰有功,斬池等數千級。堅大怒,復遣領軍將軍楊定率左右精騎二千五百擊沖,大敗之,俘掠鮮卑萬餘而還,堅悉坑之。又敗沖右僕射慕容憲於灞滻之間。定果勇善戰,沖深憚之,納永計,穿馬埳以自固。遷永黃門郎。


廆が弟は運にして、運が孫は永なり。永、字は叔明なり。暐の既に苻堅に并さる所と為るに、永は長安に徙り、家は貧しく、夫妻は常に靴を巿にて賣る。暐の堅に殺さる所と為るに及びたるや、沖は乃ち尊號を自稱し、永を以て小將と為す。沖と左將軍の苟池は驪山にて大戰し、永は力戰し功有り、池ら數千級を斬る。堅は大怒し、復た領軍將軍の楊定を遣りて左右に精騎二千五百を率い沖を擊たしまば、之を大いに敗り、鮮卑萬餘を俘掠し還ざば、堅は悉く之を坑す。又た沖が右僕射の慕容憲を灞滻の間にて敗る。定は果勇にして戰に善く、沖は深く之を憚り、永が計を納め、穿馬埳を以て自ら固む。永を黃門郎に遷ず。


(魏書95-25_為人)




西燕皇帝と言うとこの人の名前が挙がるわけですが、実のところ彼のことよくわかっていませんでした。こうして読んでみると、長安城からの脱出のタイミングとか、戦術とか、進言のタイミングとか、天に愛されてんじゃねえのってくらいバッチリはまってますね。時期が時期なら、もう少し大きな働きの出来る人だったのかもしれません。けど、残念ながらそこは姚興と勃勃と慕容垂と拓跋に囲まれるとか言う地上の地獄だったんだよなぁ……。


かれの立ち回り、史書にどう描かれているのか。楽しみです。



灞水、滻水

長安の東を、南から北に流れる川。途中で滻水を吸収し、渭水いすいに注ぎ込む。その渭水は東に流れて、やがて黄河こうがに注ぐ。支流の支流なんだが、地図見る限りだと、やっぱりめっちゃでっかいんですよねぇ……。

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